貨幣・勤労・代理人 経済文明論![]() 文明という視点に立ったとき、19世紀以来の経済の歴史はどのように見えるだろうか。人びとは生産の場を離れていっそう消費にのめり込み、各種産業では巨大な組織(会社)が日々の生活すみずみまでを左右する。そして、あらゆるものを取引するビジネスの肥大化――。産業革命から今日まで、46の名著とともに、人類史的な視野で見つめる。
近代社会はモンスターと化して、一連の仕組みの暴威と限界を晒するようになった。このような今日の経済社会に対して、内容を分析し、問題提起したのは、アメリカの経済学者R・ハイルブローナーである。彼は近代における経済社会の主要な変化を、市場の拡大に加えて、三つの要因にみている。著書『世俗の思想家たち』(1953)や『経済社会の形成』(1963)で次のようにいう。 第一に、ヨーロッパにおいて「国家」という政治単位が徐々に出現したことを、彼は重視している。農民戦争と国王による征服で打撃を受けた初期封建制、すなわち孤立した小国群というあり方は、中央集権的な君主制に取って代わられた。そして、この君主制への移行に伴い、国民国家の精神の昂揚が起こる。この過程が重要だったのだ。 経済的取引が成り立つ条件にはさまざまなものがある。遠隔地貿易などの対外取引、あるいは国内取引、局地的取引によっても条件は異なる。しかし、いずれの取引の場合にも、貨幣、度量衡、法律などの共通の諸制度がなければ、取引成立は長期的なものとなりえない。そしてこのような経済制度の整備には、集権国家の力が必要であった。したがって、経済活動に対する国家の介入は、一方において規制、統制を伴うものであったが、他方においては広範な地域を商業取引に解放することになり、実質的には経済活動を保護することになったのである。(第二章「経済文明の起源」より) 本書で触れた書籍(著者名のアイウエオ順) 目次 はじめに 第一章 経済にも文明のかけらが存在するだろうか 第二章 経済文明の起源 第三章 なぜクラフトフェアは限界に達したのか 第四章 生産的とはどのような状態か 第五章 なぜ近代組織は大規模化するのか 第六章 なぜエージェンシー問題は生ずるのか 第七章 勤労精神への疑問 第八章 消費社会への転換 第九章 貨幣の信頼性はいかに保たれるか 第十章 ビジネスと産業の対立 第十一章 再び、経済文明とはなにか 本書で触れた書籍一覧 おわりに 坂井素思(さかい・もとし) 書店様向け![]() |
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