殴り合いの文化史

  • 著:樫永真佐夫
  • 装丁:松田行正+杉本聖士
  • 定価:本体3700円+税
  • 46判上製/424ページ
  • 2019年4月30日
  • 978-4-86528-223-8 C0039
リングに上った人類学者が描く、殴り合いのもたらしたもの
名誉と屈辱、理性と本能、男らしさと女らしさーー
手に汗握る殴り合いの快楽、自らのボクサーとしての経験。歴史を繙き、現代をフィールドワークすることで、殴るヒトの両義性を浮かび上がらせる、新しい暴力論。

モハメド・アリ、ピストン堀口といったボクサーの物語をはじめ、カイヨワ、オルテガ・イ・ガゼーの研究や、ドストエフスキー、柳田国男の作品、ソクラテス、鉄腕アトム、スーパーマン、ボブ・ディラン、オセアニアの儀礼など、領域を越えて紡ぎ出される、殴り合いのもたらしたもの。



太古から現代にいたるまで、人間は、このきわめて「人間的」な暴力とともにあったからだ。いや、その歴史は、人間の歴史そのものなのだ。(「序」より)



◆

本書に出てくる人々◆

テオゲネス/モハメド・アリ/ソクラテス/ホメロス/ドストエフスキー/ジャック・ロンドン/ホイジンガ/カイヨワ/オルテガ・イ・ガゼー/セオドア・ルーズベルト/スーパーマン/鉄腕アトム/ロッキー/矢吹丈/柳田国男/三島由紀夫/ピストン堀口/コンラート・ローレンツ/ヴィクトール・フランクル/デズモンド・モリス/ジョイス・キャロル・オーツ/たこ八郎/ボブ・ディラン・・・・・









1章 人間的な暴力
1-1 そこにある暴力
  血みどろの共同体/身内の殺害
1-2 闘争の擬態
  儀式から見世物へ/闘争を見る喜び/モハメド・アリ—闘争のしゃべり/にらめっこ/目の暴力
1-3 残忍な喜び
  矢を射刺された聖人/賛美される残忍さ


2章 理性の暴力
2-1 本能と暴力
  世界最強の男/攻撃は本能か/子殺しとリンチ/闘争のプロセス
2-2 口から手へ
  人間の本質/「殴る」類人猿/口の武装解除
2-3 遊びと闘争
  気晴らしの発生/遊びと成熟/ホモ・ルーデンス/模倣と競争/ラッキーパンチ—運と眩暈/狩猟からスポーツへ/sportの語源/殴り合いのルール


3章  殴り合うカラダ
3-1 殴り合うカラダのイメージ
  自転車ドロボーへの復讐/ベイヨーンの流血男/敗者が勝つ物語/ロッキーのカラダ/アスリートのカラダ/かっこいいカラダ
3-2 つくられるカラダ
  殴り合いのプロのカラダ/古代ギリシアのスポーツクラブ/拳闘のシンボルは?/太った腹の使い方/減量の職人
3-3 名がつくるカラダ
  マサト?コボリ?/「五つ星焼き鳥」のパンチ/リングネームとニックネーム/「海老原」はヤバい!?/姓は「ガッツ」?


4章  拳のシンボリズム
4-1 拳と手のひら
  拳の親指/誓いの手のひら/殴る拳
4-2 拳はペニス
  ガッツポーズの日/ガッツポーズは文化的/生殖器崇拝/凶暴な拳/殴り合いの挨拶/オバマが広めたフィスト・バンプ
4-3 正義の拳
  鉄腕アトム/鉄腕とパンチ/正義の味方はパンチしない/柔よく剛を制する/スーパーマンの誕生/アメリカのニューシンボル/都市労働者のヒーロー/大統領はボクサー/白人男性の「男らしさ」/ヒーローのカラダ
4-4 国家による拳の暴力
  拷問と清め/司法との対決/拷問の拳/文化と残忍さ


5章  殴り合いのゲーム化
5-1 闘争のゲーム
  戦闘と決闘/決闘というゲーム/殴り合う民族競技/こぶしうち/足技があっても「拳法」
5-2 古代オリンピックの拳闘
  ホメロスが語る拳闘/オリンピアの祭典/ソクラテスも拳闘ファン/拳の装着具/古代オリンピックの終焉
5-3 イギリスの拳闘─流血と底力
  イギリス初の拳闘試合/初のチャンピオン/ブロートン・ルール/流血の楽しみ/暴力からゲームへ/プライズ・ファイトの急衰
5-4 ボクシングの成立
  ボックス!/スパーリングの発生/高貴な自己防衛の技術/プライズ・ファイトからボクシングへ/クイーンズベリー・ルール/時計の時間/流血と底力の排除/決闘の面影


6章  「殴り合い」は海を越えて
6-1 ボクシングは港から
  黒船とともに/アメリカのピュジリズム/イギリスとアメリカのチャンピオン対決/金メッキ時代の殴り合い/日本初のボクシング/横浜のメリケン練習所/異種格闘技の人気
6-2 「一石四鳥」のスポーツ
  柔道対ボクシングのケンカ/日本ボクシングの発足/キャッチコピーは「東郷」/メリケンから拳闘へ
6-3 「拳闘」がやってきた!
  ボクシング史の時代区分/初のスーパーアイドル・ボクサー/血の十回戦!/ヤクザも覆せない判定/槍とピストン
6-4 玉砕から科学へ
  ボクシングは「青空道場」から/フリーのボクサー/日米合作の世界チャンピオン/日本人の自信回復/テレビとボクシング


7章  一発逆転の拳
7-1 ハングリー精神論
  スポ根漫画の時代/科学より根性
7-2 よみがえる矢吹丈
  浪花のジョー/もやしっ子から/永遠のボクサー/平成の矢吹丈/ヒーロー誕生物語
7-3 逆転の渇望
  マサオ・オーバの逆転/復讐のチャンス/アメリカ社会とボクサー/ボクシングとユダヤ人/ボクシングジムという避難所/日本のプロボクサー/人生の逆転
7-4 殴り合いと信仰
  信仰と勝利/反宗教的なコスチューム/暴力と宗教規範/非暴力、無抵抗という戦法


8章  名誉と不名誉
8-1 凶器の拳
  「三度笠ボクサー」のストリートファイト/プロボクサーの正当防衛/勝ったのは誰か?
8-2 ピュアで正しい「殴り合い」
  暴力の採点/誰も見たことのないパンチ/噛みつきは反則?/暴力への不寛容
8-3 つくられる勝者と敗者
  ホームタウンデシジョン/アウェーの洗礼/殴り合いへのご招待/咬ませ犬/フィリピンはボクシング先進国
8-4 男らしさと名誉
  ヴァーチャルな殴り合い/度胸試しと名誉/男性性と女性性/男らしさ/名誉のための決闘/殴打と嘲弄


9章  殴り合いの快楽
9-1 「死と再生」の物語
  ボクシングは麻薬/燃えつきること/テントボクシング/イニシエーションと現代
9-2 殴り合いと快楽
  三島由紀夫とボクシング/カラダと陶酔/無害のマゾヒズム


10章  女性化する拳
10-1 ボクシングと女性
  女性の権利の拡大/ジャック・ロンドンの時代/女人禁制のボクシング会場/女性の殴り合いの楽しみ方/『ミリオン・ダラー・ベイビー』の成功 /日本の女子ボクサーたち/「あばずれ」女の殴り合い/男もすなるボクシング/殴り合いの模倣の模倣の模倣/ボクシングの女性化
10-2 殴り合いは続く
  暴力の減少/デイビー・ムーアを殺したのは誰?/脳へのダメージの競い合い/ボクシング廃止論/同意ある暴力/殴り合いの未来


あとがき

参考文献




樫永 真佐夫(かしなが・まさお)
一九七一年兵庫県生まれ。二〇〇一年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。専攻は文化人類学、東南アジア地域研究。現在、国立民族学博物館教授、総合研究大学院大学教授。主著書として、『黒タイ歌謡〈ソン・チュー・ソン・サオ〉 村のくらしと恋』(雄山閣、二〇一三年)、『黒タイ年代記〈タイ・プー・サック〉』(雄山閣、二〇一一年)、『ベトナム黒タイの祖先祭祀 家霊簿と系譜認識をめぐる民族誌』(風響社、二〇〇九年)など。

掲載情報
岡崎武志さん「<SUNDAY LIBRARY>」(2019年5月14日 サンデー毎日)
UOMO 7月号書評欄(2019年5月23日)
批評 拳に象徴される人類史探る(2019年6月8日 日本経済新聞)
通崎睦美さん 『殴り合いの文化史』樫永真佐夫(2019年6月16日 読売新聞)
産経新聞 「異色の暴力・人間論」(2019年6月16日 書評欄)
朝日新聞 「ボクシングに魅せられて」(2019年6月22日 「著者に会いたい」)
繁田信一さん 文春図書館「今週の必読」(2019年7月11日号 週刊文春)
福島 泰樹さん「拳で殴る暴力の文化史・精神史」(2019年9月 週刊読書人)
玉木正之さん「カメラータ・ディ・タマキ」(8月1日)