殴り合いの文化史![]()
リングに上った人類学者が描く、殴り合いのもたらしたもの
名誉と屈辱、理性と本能、男らしさと女らしさーー
手に汗握る殴り合いの快楽、自らのボクサーとしての経験。歴史を繙き、現代をフィールドワークすることで、殴るヒトの両義性を浮かび上がらせる、新しい暴力論。
モハメド・アリ、ピストン堀口といったボクサーの物語をはじめ、カイヨワ、オルテガ・イ・ガゼーの研究や、ドストエフスキー、柳田国男の作品、ソクラテス、鉄腕アトム、スーパーマン、ボブ・ディラン、オセアニアの儀礼など、領域を越えて紡ぎ出される、殴り合いのもたらしたもの。
太古から現代にいたるまで、人間は、このきわめて「人間的」な暴力とともにあったからだ。いや、その歴史は、人間の歴史そのものなのだ。(「序」より) ◆ 本書に出てくる人々◆ テオゲネス/モハメド・アリ/ソクラテス/ホメロス/ドストエフスキー/ジャック・ロンドン/ホイジンガ/カイヨワ/オルテガ・イ・ガゼー/セオドア・ルーズベルト/スーパーマン/鉄腕アトム/ロッキー/矢吹丈/柳田国男/三島由紀夫/ピストン堀口/コンラート・ローレンツ/ヴィクトール・フランクル/デズモンド・モリス/ジョイス・キャロル・オーツ/たこ八郎/ボブ・ディラン・・・・・ 序 1章 人間的な暴力 1-1 そこにある暴力 血みどろの共同体/身内の殺害 1-2 闘争の擬態 儀式から見世物へ/闘争を見る喜び/モハメド・アリ—闘争のしゃべり/にらめっこ/目の暴力 1-3 残忍な喜び 矢を射刺された聖人/賛美される残忍さ 2章 理性の暴力 2-1 本能と暴力 世界最強の男/攻撃は本能か/子殺しとリンチ/闘争のプロセス 2-2 口から手へ 人間の本質/「殴る」類人猿/口の武装解除 2-3 遊びと闘争 気晴らしの発生/遊びと成熟/ホモ・ルーデンス/模倣と競争/ラッキーパンチ—運と眩暈/狩猟からスポーツへ/sportの語源/殴り合いのルール 3章 殴り合うカラダ 3-1 殴り合うカラダのイメージ 自転車ドロボーへの復讐/ベイヨーンの流血男/敗者が勝つ物語/ロッキーのカラダ/アスリートのカラダ/かっこいいカラダ 3-2 つくられるカラダ 殴り合いのプロのカラダ/古代ギリシアのスポーツクラブ/拳闘のシンボルは?/太った腹の使い方/減量の職人 3-3 名がつくるカラダ マサト?コボリ?/「五つ星焼き鳥」のパンチ/リングネームとニックネーム/「海老原」はヤバい!?/姓は「ガッツ」? 4章 拳のシンボリズム 4-1 拳と手のひら 拳の親指/誓いの手のひら/殴る拳 4-2 拳はペニス ガッツポーズの日/ガッツポーズは文化的/生殖器崇拝/凶暴な拳/殴り合いの挨拶/オバマが広めたフィスト・バンプ 4-3 正義の拳 鉄腕アトム/鉄腕とパンチ/正義の味方はパンチしない/柔よく剛を制する/スーパーマンの誕生/アメリカのニューシンボル/都市労働者のヒーロー/大統領はボクサー/白人男性の「男らしさ」/ヒーローのカラダ 4-4 国家による拳の暴力 拷問と清め/司法との対決/拷問の拳/文化と残忍さ 5章 殴り合いのゲーム化 5-1 闘争のゲーム 戦闘と決闘/決闘というゲーム/殴り合う民族競技/こぶしうち/足技があっても「拳法」 5-2 古代オリンピックの拳闘 ホメロスが語る拳闘/オリンピアの祭典/ソクラテスも拳闘ファン/拳の装着具/古代オリンピックの終焉 5-3 イギリスの拳闘─流血と底力 イギリス初の拳闘試合/初のチャンピオン/ブロートン・ルール/流血の楽しみ/暴力からゲームへ/プライズ・ファイトの急衰 5-4 ボクシングの成立 ボックス!/スパーリングの発生/高貴な自己防衛の技術/プライズ・ファイトからボクシングへ/クイーンズベリー・ルール/時計の時間/流血と底力の排除/決闘の面影 6章 「殴り合い」は海を越えて 6-1 ボクシングは港から 黒船とともに/アメリカのピュジリズム/イギリスとアメリカのチャンピオン対決/金メッキ時代の殴り合い/日本初のボクシング/横浜のメリケン練習所/異種格闘技の人気 6-2 「一石四鳥」のスポーツ 柔道対ボクシングのケンカ/日本ボクシングの発足/キャッチコピーは「東郷」/メリケンから拳闘へ 6-3 「拳闘」がやってきた! ボクシング史の時代区分/初のスーパーアイドル・ボクサー/血の十回戦!/ヤクザも覆せない判定/槍とピストン 6-4 玉砕から科学へ ボクシングは「青空道場」から/フリーのボクサー/日米合作の世界チャンピオン/日本人の自信回復/テレビとボクシング 7章 一発逆転の拳 7-1 ハングリー精神論 スポ根漫画の時代/科学より根性 7-2 よみがえる矢吹丈 浪花のジョー/もやしっ子から/永遠のボクサー/平成の矢吹丈/ヒーロー誕生物語 7-3 逆転の渇望 マサオ・オーバの逆転/復讐のチャンス/アメリカ社会とボクサー/ボクシングとユダヤ人/ボクシングジムという避難所/日本のプロボクサー/人生の逆転 7-4 殴り合いと信仰 信仰と勝利/反宗教的なコスチューム/暴力と宗教規範/非暴力、無抵抗という戦法 8章 名誉と不名誉 8-1 凶器の拳 「三度笠ボクサー」のストリートファイト/プロボクサーの正当防衛/勝ったのは誰か? 8-2 ピュアで正しい「殴り合い」 暴力の採点/誰も見たことのないパンチ/噛みつきは反則?/暴力への不寛容 8-3 つくられる勝者と敗者 ホームタウンデシジョン/アウェーの洗礼/殴り合いへのご招待/咬ませ犬/フィリピンはボクシング先進国 8-4 男らしさと名誉 ヴァーチャルな殴り合い/度胸試しと名誉/男性性と女性性/男らしさ/名誉のための決闘/殴打と嘲弄 9章 殴り合いの快楽 9-1 「死と再生」の物語 ボクシングは麻薬/燃えつきること/テントボクシング/イニシエーションと現代 9-2 殴り合いと快楽 三島由紀夫とボクシング/カラダと陶酔/無害のマゾヒズム 10章 女性化する拳 10-1 ボクシングと女性 女性の権利の拡大/ジャック・ロンドンの時代/女人禁制のボクシング会場/女性の殴り合いの楽しみ方/『ミリオン・ダラー・ベイビー』の成功 /日本の女子ボクサーたち/「あばずれ」女の殴り合い/男もすなるボクシング/殴り合いの模倣の模倣の模倣/ボクシングの女性化 10-2 殴り合いは続く 暴力の減少/デイビー・ムーアを殺したのは誰?/脳へのダメージの競い合い/ボクシング廃止論/同意ある暴力/殴り合いの未来 あとがき 註 参考文献 樫永 真佐夫(かしなが・まさお) 掲載情報 |