産経新聞に『「ひきこもり」経験の社会学』の書評

産経新聞(2016年11月6日付)の読書欄に、『「ひきこもり」経験の社会学』の書評が掲載されました。評者は静岡大学の荻野達史教授です。

聞き届けられない絶望…
 ひきこもりが広く認知されて20年近くなるが、一時期のような注目は集めなくなった。それはおそらく、単に目新しさを失ったということではない。他の言葉で論じることもできると思われるようになったからであろう。
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 「ひきこもり」には、他の言葉や問題に回収されるのを頑なに拒むところがある。多くの当事者は、そして一部支援者も、他の言葉にすると取り落とされる苦悩があり、それは戦後日本のあり方に深く関わるはずだと感じてきた。本書は、今この時期に、こうした思いを丁寧にすくい上げ、系統的に論じたことにおいて、きわめて貴重である。
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 本書はまた、この懊悩が、戦後日本の社会保障のあり方に根ざすことを明確に提示している。他のOECD諸国に比べ、顕著に国家による保障が薄く、企業と家族に生活の保障が多く委ねられてきた。それゆえ、「まともに就職」できない者は、即座に家族の危険因子となる。学校から企業へと順調に進めない者の生きる道筋はひどく狭く、この道を外れ懐疑する語りは無意味とされ、ときに憤怒を誘う。
 だがかれらが生き直すためには、混乱を語り受け止められることで、自分なりに生きうる物語を別様に紡ぐことが必要だ。頓挫した生の混沌を語り聴かれる社会が、本書で希求されている。人生を組織任せにはできなくなった時代、その豊かさは誰にとっても求められるもののはずだ。


ご高評、まことにありがとうございました。