出版梓会新聞社学芸文化賞受賞のご挨拶

このたびは出版梓会新聞社学芸文化賞にご選定いただき、本当にありがとうございます。週末は、新聞の書評欄をチェックすることが習慣になっておりますが、いままで、お世話になってきた新聞社・通信社の文化部長に選考されたということで、とても嬉しく光栄です。また主催の出版梓会のみなさまに深く感謝いたします。

弊社の設立は、2005年4月で、今年で13年目になります。小さな出版社ですので、人の数も、宣伝の力も限られているなかで、自社の書籍が新聞で書評されている記事を見つけたときは、一瞬、周りの世界がぱっと明るくなります。おおげさでなく報われたような心持ちになります。事前に書評が載ることがわかるときは格別のものがあります。そういうときは、スタッフ全員で歓声があがります。その後、だれが書評してくれるのかとか、書店に情報を流さなければとか、しばらく会話が続きます。

弊社の名前は、書家の石川九楊先生につけていただきました。左も右も、助けるという意味があり、両手を重ねると「友」という字ができます。友とともにある出版活動を願って、左右社と命名されました。

会社を設立して、はじめて会社名で領収書をもらったときのことを覚えています。地方の小さな博物館の事務室でカタログを買ったときで、領収書をお願いしたところ、女性の方に「サユウシャとはどういう漢字を書きますか」と聞かれたので、「ヒダリミギの左右です」と答えました。「いい社名ですね」といわれるのを期待していたところ、その女性はなにか珍しい動物を見るように笑いながらこちらの顔を見られました。笑いをこらえて書いたために、弊社の字がはげしく乱れて波打っていました。

弊社の最大の特徴はスタッフにあります。編集だけをしている者はいません。編集をしながら、営業をし、広告も考えます。書店に行き注文をもらい、書店に直接本を届けにいきます。営業だけをしている者もいません。営業をしながら、編集もします。年に五、六冊、自分が中心となって本を作っていきます。デザインは松田行正さんにお願いすることが多いのですが、ときにはデザインもすれば、イラストも描きます。採算の計算はまずは自分たちで行い、印刷所のやりとりも各担当者が行います。全員が書店からの電話に対応できます。本はみなで作り、みなで売るものだと考えています。それこそが本を作る醍醐味だと思っています。

弊社の近年の話題の一つは『〆切本』の刊行です。いまはメールがありますが、30年ぐらい前は、FAXの前で原稿を待ち、朝方、疲弊と不安で心臓がどきどきしてきて、このまま原稿を待ちながら死ぬのではないか、という経験がなんどかあります。本をつくっている人はだいたいそのような経験をお持ちかと思います。でも、著者の方は、もっと大変な思いをしてご執筆されているのだと思うと、怒る気持ちもあきれる気持ちもまったくなく、ただただありがたい思いでいっぱいでした。で、夏目漱石や谷崎潤一郎は、そのあたり、どうだったのだろう、と調べたら、これが書き残されていました。そのような文豪のエッセイや日記を一年以上かけて集めたアンソロジーが『〆切本』『〆切本2』です。正直、これほど話題になるとは思っておりませんでした。

僭越ながら、この場をお借りして、ほかの本も紹介させていただきます。弊社は、放送大学のテキストをもとにした放送大学叢書を40冊まで刊行しております。社会学者大澤真幸さんの個人誌「THIKING 「O」」や、『天の川銀河発電所』『桜前線開架宣言』といった短詩系文学のアンソロジーを出しております。『ウォークス』や『メイキング』といった翻訳書、片岡義男さんらの小説や、管啓次郎さんらの詩集も出しております。いまは『源氏物語』の訳し戻しの本を刊行中です。

受賞の知らせをいただいたとき、思い出したことがあります。最初の本を出したときのことです。注文書をもって書店を回りました。神保町の東京堂書店に行きました。ちょうど当時の店長の佐野さんが経理かなにかの数字を整理していました。おそるおそる「つくったばかりの出版社なのですが営業で来ました」というと、佐野さんは「どんな本?」といってまた目を下におろし作業を続けられました。本の説明を始めましたが、そのあいだ佐野さんは電卓を叩き続けていました。最初は心を入れて説明していたのですが、佐野さんが下を向いたままなので心が折れ、最後は棒読みのようになってしまいました。説明が終わると、佐野さんは「それで何部ほしいの」と電卓を叩きながらぼそっと聞かれました。「できれば20部、でも5部でもいいです」と答えると、佐野さんすこし考えられている。それで「いや、なんとか2部…」と伝えると、佐野さんは注文書にボールペンで「100」と書かれました。店はもう閉店のときで、お店を出たあと涙をこらえながら、東京堂書店に向かって深々とお辞儀をしました。

読者に、切手で左右社の本を購入してくれる人がいます。どうして切手なのか。根拠はないのですが、これは本を買っているのではなく、左右社を応援してくれているんだ、と思うようにしています。そういう読者に支えられてきました。応援してくれているんだから、こんどは応援したい、と思います。

ここまで続けてこられたのは、ひとえに、読者、書店、著者をはじめとするみなさまの支えがあったからです。本当に感謝いたします。支えられていることを忘れず、謙虚に、これからも社会に貢献し、人生を応援する本を、スタッフと一緒につくっていきたいです。

本日は本当にありがとうございました。

 

左右社代表 小柳学