図書新聞に『RED ヒトラーのデザイン』の書評が掲載されました

室沢毅(社会批評)さんに「あらたなナチズム論、ファシズム論と出会った-薄っぺらなポピュリズムを見通すことが切実」と題して『RED ヒトラーのデザイン』を評していただきました(2018年3月17日)。
 表紙カヴァーに、「REDという大きな文字が赤地のなかで浮き上がっている。特に「ヒトラーのデザイン」という文字がなければ、共産主義の「赤」を連想してしまう世代だからかもしれないが、直ぐに山本直樹の傑作『レッド』を連想してしまった。山本が漫画(劇画)という手法によって連合赤軍事件の深奥へと徹底的に切開していくように、「デザインの歴史探偵」を自称する著者は、ヒトラーによって像型されたドイツ的ファシズムの様態を縦横に解析していく。本書を読み終え、わたしにとって、あらたなナチズム論、ファシズム論と出会ったという思いだ。
 著者は、ナチズムの様式の根源を次のように述べていく。「カトリックが数百年かけて確立した様式を、ヒトラーは、カトリックのスタイルを真似て、過去の遺物を現代的にアレンジすることで、たかだか二十数年で完成させてしまった。しかもこの様式には、親衛隊やゲシュタボなどの恐怖装置、効率重視の収容所の無機質なデザイン、虐殺のシステムなど負のデザインも数多く含まれる。」
 著者は、「ヒトラーは稀代の編集者」だと見做しているわけだが、周知のように、若きヒトラーは画家を志していたから、後年の模倣や美術的なデザインセンスも、当然のことのように思えてくる。だが、それでもなぜ、ドイツ民衆が、あれほどまでに煽動されていったのかを、わたしは納得出来ないでいた。著者は、「赤色、カギ十字、制服、行進や敬礼の仕方などさまざまなパーツが、ヒトラーの演説も含めて官能的だったから」、受け入れられたのだろうとしている。確かに、「官能的」であることは重要なファクターであると思う。最近でこそ死語になりつつあるが、新興宗教や悪徳商法などのトラブルがあった時、マインドコントロールといったことが問題になったわけだが、ヒトラーの手法はそのような言葉では収まりきれないものがあるといえる。
「ヒトラーが夢想したドイツのグランド・デザインは、端的にいえば、失われた領土を取り戻し、新たな領土を獲得すること。パリからモスクワまで広がる第三帝国の形成である。内実はユダヤ人を排除した国粋主義革命による、神話的でロマン主義に満ちたドイツ民族共同体国家樹立。」「スターリンは、皇位継承みたいなものでレーニンの死後、政治的根回しで権力を手に入れた。大衆の支持は必要なかった。だから独裁制を保つために自らの立像を必要としていたのだ。/ところが、ヒトラーは街頭行進や演説を通じて、大衆の人気を得ていった。いわばライブによってのし上がっていったのだった。だから物いわぬ立像などポリシーに合わなかったのだ。/ただし、ヒトラー・クローンをつくりだすために学校の教室にはヒトラーの肖像が飾られ、また、ヒトラーの顔や写真やイラストのついた紙コップやクラッカー、ピールジョッキなどは大量に出回った。まさにアイドルである。そこがスターリンとは大きく違う。」
 アイドルといえば、本書でも触れているが、一昨年の秋頃、アイドルグループ、欅坂46のファッションが「ナチス風だということでアメリカのユダヤ系人権団体(略)から批判され、謝罪に追いこまれた」という“事件”があったわけだが、わたしには魔女狩り的で過剰な反応としか思えないし、ならば、「アメリカのユダヤ系人権団体」は、自国の大統領の白人至上主義を徹底的に糾弾しているのかといいたくなる。アメリカ政府は一貫してパレスチナ・イスラエル問題に関し、イスラエル側の立場である以上、それはありえないことではあるのだが。
 さて、本書の最大の魅力について最後に触れておかねばならない。それは、「ナチス・デザインを語るために、多くのナチス関連映画を取り上げている」ことだ。リアルタイムで観た、ヴィスコンティの『地獄に堕ちた勇者ども』の退廃美に衝撃を受け、もう十年以上前の作品になってしまったが、ポランスキーの『戦場のピアニスト』を観て、しばらくショパンのピアノ曲が頭の中で悲しく鳴り響いていたものだった。本書を読みながら、そのようなことが思い出された。過去の事が忘却の彼方へ追いやられたとしても、映画作品によって、確かに「思いださせてくれ」て、しかも「リアルに感じ取」ることができるといっていい。
「ナチスは政治と芸術を合体させて『国家』をアートにしようとした。アートを、意味と関係なくカッコいいと思ってしまう感性を手玉にとった、とも言える。」(「おわりに」)
 著者は最後に、こう述べている。「ナチス」という主語をいくらでも置きかえてみることは可能だ。本書を読み通して、薄っぺらなポピュリズムを見渡すことが切実になっていると、あらためて納得したといっておきたい。(社会批評)
ありがとうございました。