沼野充義先生による『ウェイリー版源氏物語』書評が掲載されました

毎日新聞2019年8月25日の読書面に、ロシア文学者・沼野充義先生による『ウェイリー版源氏物語』の書評が掲載されています。
ウェイリーの英訳は原文にないものを追加したり、逆に省略したりした箇所も多く、まだ『源氏物語』の研究がいまほど進んでいなかった時代のことで、誤訳も少なくないと言う。しかし、日本の事物を英語圏の読者に分かりやすいものに置き換え、英語による文学作品として読めるものとして、独自の価値を持つと評価されている。それ以後、サイデンスティッカー、タイラー、ウォシュバーンなどによる、より正確な英訳が次々に出たが、ウェイリー版の輝きは失われていない。毬矢・森山訳は英語作品としてのウェイリー版『源氏物語』の魅力を日本語で再現しようとしたものだ。もちろん単に日本語の原文に帰ってくることにはならない。ウェイリーが英訳の作業を通じて、原文の何かを失ったとしても、原文にない何かを付け加え、新しい作品に生まれ変わらせたのだとすれば、毬矢・森山訳はさらにそこから新たな作品を再創造した。
(略)
読み進むうちに分かってくるのは、この語り口がじつに滑らかで優美だということだ。こうして現出するのは、明澄な無国籍風のお伽噺のようなもう一つの世界である。いや、「無国籍」と言うよりは、これこそ古くて新しい、日本を超えた現代の世界文学と呼ぶべきものだろうか。
「飛び切りユニークな訳文なので、これ以上新訳が要るだろうかなどという疑念を軽く吹き飛ばしてしまう」とも評していただきました。ありがとうございます。