武村政春さんによる『ラインズ』書評が掲載されました

北海道新聞〔2014年8月17日号〕の書評欄にて、『ラインズ 線の文化史』をご紹介頂きました。評者は東京理科大学准教授の武村政春さん(生物学)です。
以下、記事の抜粋です。

 
多次元で読み解く世界

 家と仕事場との往復という単純な反復行動に、かくも深い意味が隠されていようとは思いもよらなかった。果たしてそれは「輸送」なのか、それとも「徒歩旅行」なのか。「輸送」であれば、かつでイギリス人が世界を股にかけて「横断」したのと同じ意味を持ち、「徒歩旅行」であれば、イヌイットによる狩りと同じ意味を持つはずだ。(略)
 
 世界がいったい何でできているかという問いかけは、今に始まったことではない。物質的な意味ではなく、人間が知覚し得る範囲において、その大脳に蓄積された数多くの概念を総動員して、世界の何たるかを俯瞰する試み——企て、と呼んだほうがいいだろう——は、これまでに、数多くの研究者による秀逸な論考を生みだしてきた。本書の主題は「線(ライン)」である。(略)
 
 人間の普遍的な行為である「文字の記述」と、ペン先が創りだす「ライン」との関係。極めて難解ではあるけれども、この本を何度も読み、やはり「ライン」の複雑な造形である活字を何度も目で追うと、著者の脳内に構築されているであろう「線」の世界がおぼろげながらわかってくる。 
 
 私は著者をこの本で初めて知った。しかし本書を紐解いていくうちに、彼の世界観が分子生物学者のそれに近いことに確信を持った。1次元の世界と、2次元・3次元の世界とのあわいに蠢(うごめ)く、私たちの目には見えにくい「メカニズム」を垣間見たのである。本書を読んだ後には、線と、表面あるいは立体との関係が強烈に胸の中に飛び込み、周囲に見える物すべてに「ライン」が浮き出てくるのがわかる。これまでにない読後感が、極めて清涼な1冊である。

武村先生、まことにありがとうございます!