柳澤田実さんによる『ラインズ 線の文化史』書評掲載

図書新聞2014年9月6日号の1面に、関西学院大学の柳澤田実さんによるティム・インゴルド『ラインズ 線の文化史』の書評が掲載されました。

 本書は、現在、最も活発に思索を展開している思想家の一人、人類学者ティム・インゴルドの著作の本邦初訳である。近年のインゴルドの著作としては、2011年のBeing Alive、2013年のMakingが挙げられるが、この両論文集の導きの糸が本書『ラインズ』(原著2007年公刊)であるのは間違いがない。「生きることは線を作り出すこと」という一つのアイディアは、本書のなかで括弧としたテーゼへと鋳造され、その後の彼の思索を牽引し続け現在に至っている。
 古今東西の文化のなかに見出される線(ライン)を、あたかも探偵のように追跡する本書は、一見学術的な推理小説のように見える。議論は、おそらく意図的に、決して単線的には進まない。読者は文字通りうねうねとした筋書き(ライン)を巡ってこそ、本書の面白みを存分に味わうことができるし、線の逍遥を讃える本書を味わう方法としてそれ以上の方法は考えられない。(略)インゴルドは、愚直と言ってよいほど一貫した立場をもった理論家である。彼が全著作において試みているのは、私たちが〈生き生きと生きている〉というこの現実を、あたかも〈生き生きとしていない〉かのように捉えさせる論理や概念から救出すること、これに尽きる。その一点において、ユーモア溢れるこの英国紳士は、時には学問的権威を敵にまわす、極めて戦闘的な論者でもある。
(略)
 インゴルドが言葉を尽くして述べるように、生きていることになかには、無数のラインがある。たとえば、起きてからここに至るまでの流れ、動線を考えてみて欲しい。あるいは目の前にある事物の輪郭や、自分が今まさに行っている話の筋を「読む」という行為について考えてみて欲しい。私たちは、自分のささやかな経験を振り返るだけでも線について何か言いたくなってくる。
(略)
 日本の読者もまた、晴れて日本語で読めるようになった本書を起点に、自らの思考の線を予想しない方向へと走らせていくことになるはずだ。「あなたがどこにいようと、そこからどこかもっと先に行けるのだから」(258頁)。

本書がさまざまな人に刺激を与えた一例として、2013年の来日講演での熱気ある議論には、文化人類学、考古学、哲学、表象文化論、生態心理学、複雑系科学の専門家たち、建築の実作者たちが集ったことも紹介されています。インゴルドの主著のひとつ「Being Alive」は、ただいま翻訳刊行準備中です。