中条省平さんによる『日本人論争 大西巨人回想』書評が掲載されました

2014年9月7日の産経新聞読書面に、大西巨人『日本人論争 大西巨人回想』の、学習院大学教授でフランス文学者・文芸評論家の中条省平さんによる書評が掲載されました。

本書は79歳から97歳に至る巨人の批評と聞き書きのほぼすべてを網羅した約800ページの大冊である。小説と違って短文のエッセーが多く、また、長男の作家・大西赤人を相手にした忌憚のない、しかし寛いだ談話を主としているので、読みやすい。そこから、端倪すべからざる深みをもつ大西巨人という作家の姿が、全人的な魅力をもって浮かびあがる。
まず驚かされるのは、その精神の膂力である。物理的老齢にありながら、巨人は自分が作家人生のまだ「中期後半」にいると意識し、青年期よりはるかに遠い深淵と迷路をめざしたいというのだ。その執拗な意志の持続には、正直いって、開いた口がふさがらない。
(中略)
[「日本人論争」という奇妙な題が孕む論点の]もう1点は、この無責任体系とも連動するが、原子力発電に対する態度決定の問題である。巨人は震災と原発事故を契機に、原子力発電賛成への転換を表明した。これには多くの読者が疑義を呈し、長男・赤人は直接父親に「全然、頭おかしい(笑)」とさえ批判している。だがこれは、原発事故の実相をひき受けないかぎり人類に未来はない、という覚悟の吐露ではなかったか。そんな黙示録的緊張感も本書には漲っている。
とはいえ、息子との談話で自作の短歌を解説する巨人の言葉には繊細な文学者の感性が溢れているし、映画を語る章では山田五十鈴への愛や、金井美恵子の映画評への敬意を表すなど、豊かな人間味も滲みでて、興味は尽きない。

ご紹介ありがとうございました!