茨城新聞・神戸新聞に岡和田晃さん『日本人論争 大西巨人回想』の書評掲載

茨城新聞・神戸新聞2014年9月8日付の読書欄に『日本人論争 大西巨人回想』が紹介されました。

「歴史の偽造」への闘争

 挑発的な表題と黄一色の装丁が人目を引く本書は、3月に97歳で世を去った作家異・大西巨人が1996年から2013年にかけて各種媒体に発表した批評文や聞き書きを集成したものだ。800ページに上る大部の書だが、どの言葉もみずみずしく、読みやすい。特に短詩型文学や映画、世界文学についての熱のこもった発言は、強烈な感染力を有している。
 口絵には、本人や自筆原稿の写真、巻末には詳細な年譜。資料価値は高い。けれどもありがちな追悼出版だと早合点することなかれ。もともと本書は作家の生前に企画されたもの。ひもとくことで見えるのは、同時代を作家が保持し続けてきたことの意義だ。
 80歳、90歳の坂を越えてなお創造力を発揮し続けた作家は、代表作「神聖喜劇」のコミック化、新作長編「深淵」や「縮図・インコ道理教」のウェブ連載など、決して守りに入ることなく、メディア横断的な試みに挑戦。若き書き手の仕事に対しても積極的な応答を重ねて来きた。
 特筆すべきは、大西巨人が終生、論争の人だったという事実である。相手を言い負かすことを自己目的化するのではなく、「対象になっている事柄の解明」のためにこそ、あえて行う「孤独にして至難の歩み」。それこそが、大西巨人が選んだ「論争の道」だった。
 とりわけ作家が問題にするのは、「当人の無知または浅知恵」がもたらす〈歴史の偽造〉だ。実際、戦前・戦後を生き抜いた当事者として、身体に刻まれた時代の記憶を語り続ける真摯な姿勢からは、〈歴史の偽造〉に対する闘争こそが論争だという、清冽で垂直的な意思が伝わってくる。
 だから本書では、微に入り細をうがった事実の証言と、天皇制全廃・戦争の完全放棄といった壮大でラジカルな提言が自然に共存している。そうした中でも震災後、原発に対して突然「賛成の立場に転じた」と期した人類史的な警句をどう捉えるべきなのか。本書はあくなき論争の書として、若い読者の参加=応答を果敢に呼びかけている。

評者は翻訳家・評論家の岡和田晃さん。
ありがとうございました!