東京新聞に『宮沢賢治 氾濫する生命』の書評が掲載されました

東京新聞(2015年9月13日付)の読書面に、鈴木貞美『宮沢賢治 氾濫する生命』が取り上げられています。(下記、一部抜粋)

たとえば賢治の代名詞でもある修羅、これは彼の自己矛盾に満ちたセルフ・イメージである。そこには六道の世界観が反映しているが、この修羅が詩「小岩井農場」ではジュラ紀や白亜紀の大森林を跋扈する爬虫類に変貌する。と思えば、一羽の鳥となって、爽やかな四月の空を飛んでいたりする。賢治ワールドでは、鳥はいつでも天上的な救済のイメージなのである。
(中略)
一方、本書は「農業技術者」としての賢治が「自然征服観に立っていた」ことも鋭く指摘している。たとえばあの「グスコーブドリの伝記」は、地球温暖化による冷害克服の話である。そこでは「土を傷めないとされる窒素肥料、硝安が空から降ってくる」。詩「産業組合青年会」ではハムをつくり、ゴムを鋳ることが語られる。こういうとき、賢治世界から科学が捨てられることは決してないのだ。近代主義者としての賢治の顔だ。
(中略)
本書は、大正生命主義の研究で知られる著者が、同時代の思潮を深く掘り下げながら、この解けない矛盾に迫っている。賢治研究としては、第一級の入門書である。

評者は吉田文憲さん(詩人・賢治研究家)です。ありがとうございます。

芦澤泰偉さんによる装幀も、生命力を感じさせる素晴らしい造本です。ぜひお手にとってご覧ください。