図書新聞に『宮沢賢治 氾濫する生命』の書評が掲載されました

図書新聞(2015年11月21日号)に、鈴木貞美著『宮沢賢治 氾濫する生命』の書評が掲載されています。評者は、評論家の澤村修治さん。

多彩な(あるいは、多彩すぎる)〈百面相〉が繰り広げた〈万華鏡〉の世界――それが宮沢賢治である。資料全集にして校訂総合全集でもある校本(筑摩書房)が二度にわたって編纂されるのも、賢治という大沃野の異様さを示す事態だといって差しつかえない。賢治テクストは一つ一つが変幻自在な魔物で、眩暈的なイメージが土砂降りとなって読者に降り注ぐ。ゆえに〈ひとつの詩のひとつの表現も、読み手によって、また角度によって読み方が違って〉きてしまうのだ。

本書は賢治がつくりだした世界を、〈自然科学をふくむ文芸・文化のなかから浮かび出た時空でもあることに意を注ぎながら歩いてみたい〉と自らいう。賢治文学の成立を、日本近代文芸史と海外思潮の受容の歴史を前提として説明するところは、背景にある浩瀚かつ安定的な知識がなせるわざだ。〈今日では、とりわけ日露戦争後、日本の文芸・文化が欧米と国際的同時性をもって展開していたことが認識され〉とあるように、賢治が文学に目覚めていく時代、存外日本は世界と近い。賢治の表現に関して、本書は『ペールギュント』や『青い鳥』などの象徴主義の潮流に触発された面を示し、ギリシア神話やローマ神話、また『千一夜物語』との関わりも指摘している。ジョン・ラスキン思想の影響を述べたところも興味ぶかい。さらにまた、賢治ワールドと同時代文学者の関係について、従来名を挙げられてきた石川啄木、北原白秋、萩原朔太郎、佐藤春夫のほかに、類縁性についての研究史をふまえて稲垣足穂や江戸川乱歩の名が出てくるところは目を惹く。

「本書を読んで、賢治の背後にある同時代の文化状況を再確認すれば、迷宮にあってたじろぐ心配は少ない」と評していただきました。ありがとうございました。