鴻巣友季子さんに『ウォークス 歩くことの精神史』を評していただきました

毎日新聞2017年7月30日の読書面に、鴻巣友季子さんによる、レベッカ・ソルニット『ウォークス 歩くことの精神史』の書評が掲載されています。

「歩くこと」の精神史を網羅的に論じた大作である。
猿人が直立歩行を始めて以来、数百万年の時を経て、歩行はサバイバルのための生物的戦略から、思索と創造の原動力、推進力へと変わっていった。欧州において文化的歩行の原点には、思索する散歩者ルソーがいる。
(中略)
第三部「街角の人生」は、街中の散策である。「街路」という言葉は「自然」に対して後ろ暗く、俗な、エロティックな、危険なものをひきつけるという。ロンドンの雑踏を歩く匿名者の悦びを綴ったウルフのエッセイが魅力的だ。同じころパリでは、同様に近眼で猫背の遊歩者(フラヌール)ベンヤミンとジョイスがすれ違っていた(かもしれない)。前者はパリを歩くボードレールの詩論を書き、後者はダブリンを歩く男を主人公に『ユリシーズ』を書いた。ブルトンはナジャと街で一夜をすごす。しかし女性は夜の遊歩者なれなかった。歩けば「商品」と見なされる恐れがあるからだ。本書では、歩行への取り組みにおける男女の違いも浮き彫りになる。
(中略)
原題はWanderlust。漂泊への想い。芭蕉の「おくのほそ道」の英訳でドナルド・キーンがこの単語をあてているのは、「そゞろ物の神につきて」という箇所だ。私たちは遠い祖先が立ち上がった時から、歩行熱にとりつかれている。

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