「月刊食堂」に松坂健氏による『愚者の説法 賢者のぼやき』書評掲載

飲食店経営の専門誌「月刊食堂」2012年12月号に、エッセイストで西武文理大学教授の松坂健氏による『愚者の説法 賢者のぼやき』書評が掲載されました。

向田邦子は名文家として知られる作家の最右翼だと思うが、食べ物のことになるといっそう文章に光沢が出るように感じる。彼女が庶民的な食べ物を愛し、板前を夢見るほど食を愛していたことはよく知られているが、人はことによく知るものについて書く時ほど蘊蓄が滲み出て文の持つ艶を濁らせるものだ。しかし、彼女が食べ物について書く時、ことさらに余計な修辞を排し、まるで豆腐をきりっと四角にきった時のような稟とした気品を持つ文体になる。これについては今回紹介する本の著者、重金敦之氏にもご賛同いただけるのではないかと思う。
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しかし、このお気楽に書かれたような文体の裏には、ある種の緊張感がある。それはあまりにさり気ないのだが、書き残さなければいけないという気持ちの張りというものか。重金氏は言う。「日本人は3月11日以来、みんな旅に出かけているような気がする」と。筆者にもあれ以来、どこか日常が虚ろに思える瞬間がたびたび訪れる。

本書は、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』とともに、文芸ジャーナリストであり、和洋さまざまな食に造詣も深く、料理に携わる人びとからの信頼もあつい重金敦之さんならではのエッセイ集です。登場するのは、黒岩比佐子、井上ひさし、渡辺淳一、森村誠一、津村節子、池波正太郎・・・。朝吹真理子、東川篤哉、三浦しをんなどなど、文芸の世界の現在にももちろん筆は及んでいます。
ただいまWEB連載中のネッセイ(ネット・エッセイ)「オンとオフの真ん真ん中」とともにお読みいただければとおもいます。