荒俣宏さんに『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』を評していただきました

朝日新聞2013年6月9日の読書面で、荒俣宏さんに、石橋正孝著『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』を書評していただきました。
ジュール・ヴェルヌの豪華挿絵入り冒険物語は〈驚異の旅〉と総称され、日本を含む全地球、いや宇宙までも舞台とした科学的幻想小説大系である。が、その舞台に、肝心のフランスが出てこない。書いても版元から出版拒否されたのだ。じつはヴェルヌは母国で異質でタフな「出版をめぐる冒険」を繰り広げていた。仏人研究者も驚くほど膨大な原資料を駆使して語られた本書は、ヴェルヌの出版大冒険こそ「驚異の旅」と呼ぶに足るという事実を証明した。
評者も作家だから版元相手にタフな闘争を行うが、ヴェルヌ作品の版元エッツェルの豪腕ぶりを知って驚愕し、この有名作家が気の毒になった。あの『海底二万里』、エッツェルの雑誌に連載した当時ですら、ヴェルヌは版元から月給で書かされる「サラリーマン作家」だったのだ。(中略)
このような横暴とも見える版元の要求や修正は、双方の息子の代になっても継続する。なぜヴェルヌはそこまで譲歩しつづけたのか。これが月へ行くよりも多事多難な仏国出版事情にあり、ヴェルヌ作品の鑑賞法を一新させる有益な示唆を得る。
本書には19世紀のフランス出版事情が詳しくふれられ、巻末には重要な出版元、キーパーソンの簡略な解説付です。本書は、作家ヴェルヌを論じるにとどまらない出版文化論としてもお読みいただけます。