『音楽家はいかに心を描いたか』
木村元(書籍編集者、アルテスパブリッシング代表取締役)
このほど刊行が始まった「放送大学叢書」の1冊。
《マタイ受難曲》の「私の心は涙の中を泳ぐ」という歌詞にバッハがあてた「泳ぎ」の旋律形は、泳法史をひもとけば「平泳ぎ」と特定でき、それゆえ平泳ぎのテンポで演奏すべきーーというように、あっと驚くような着眼点から楽曲の本質に深く切り込んでいく筆致は、著者ならではのもの。「(音楽の)美の原因を説明することは困難」と自覚しながらも、「音楽作品は「音楽」という特殊な「言語」で書かれたメッセージである」という信念から、さまざまな楽曲に秘められた作曲家の意図に大胆にアプローチしていきます。
本書が著者の遺著となりました。巻末の著者プロフィールの最後に記された「08年死去」という1行に、その報に接したとの唐突に突き放されたような感覚がよみがえり、ことばを喪います。
「あんさんぶる」no.497、2009年7月号