第9回 人 生 の 相 談

 ドミニカ共和国と、ドミニカ国は別物の、違う二つの国だ。メジャー・リーグ・ベースボールを見ていなければ、そんなこときっと一生知らなかったと思う。野球が強いのは、ドミニカ共和国。レッド・ソックスのオルティーズとラミレスの3番、4番はじめ、MLBには規格外の才能にあふれるドミニカンだらけだ。国別チームで本気に戦ったら、本命はドミニカ、と考える専門家は多い。
 日本にだって規格外の名選手はいる。
 いまマニアに渋い話題を提供しているのが、東北楽天ゴールデン・イーグルスの2人組。内野手のホセ・フェルナンデスと、投手のドミンゴ・グスマンである。
 「人生の目的とは、人を愛することを習得すること。人生から愛を取ってしまったら、ゼロに等しいんだよ」。モーツアルトでも、エリュアールでも、瀬戸内寂聴でもない。この名言を吐いたのは、ホセ・フェルナンデス(ミドルネームで愛称は「マヨ」)だ。
 昨年、ペナント争い天王山の東京ドーム3連戦で中日が巨人に敗北した直後の10月初旬だ。HPなどによれば、楽天—日本ハム戦で決勝ホームランを打ったあとにつぶやいたマヨの名言となっている。だが、調べるとマヨは決勝ホームランは打っておらず、真偽のほどは不明だ。だが、とにかく哲学的というか宗教的なことを言う野球選手は珍しい。
 ここから「マヨの哲学」が一人歩きした。ノムラのぼやきとセットで、「野球には言葉が足りない」と不満を持つマニアたちを喜ばせ始めたのである。愛を語る野球人というのもかなり珍しいだろう。
 「失敗を考えれば、結果はおのずと失敗だ。勝つことに賭ければ、それだけで一歩前進なんだよ」(07年9月、対オリックス戦で追撃のソロホームランを放って)
 先日、白夜書房の「野球小僧」を買ったら、なんと「マヨにおまかせ ホセ・フェルナンデスの人生相談」なる新連載が出来ていた。「お笑い芸人をやっていましたが、志半ばで夢を断念しました」「好きな女性に思いを伝えられないのです。どうしたらいいでしょう」などの人生相談に、マヨが真剣に答えているのである。その内容は………ははは、大して面白くない。典型的な「企画のみ良し」である。
 もう1人。ドミンゴは中日ファンにはなじみのドミニカンである。
 04年、3勝3敗で迎えた日本シリーズ第7戦。50年ぶりに迎えた日本一に近づいた日、なんの因果だ、と私は同志と、ナゴヤドームで試合が始まる前から半ば泣いていた。今日勝てば日本一、という試合にドミンゴ先発で臨まなければいけないほど、この世の中に悲しいことはない。せめて精神安定剤を飲んでから登板してほしい。
 2回一死二塁、始まった……。ドミンゴがまずボーク。次に取れそうな打球を内野安打に。そしてエラー。一挙5失点、こうして試合は終わったのである。気性が激しく、感情をコントロールできないドミンゴほど頼りにならない選手はいない。ドミンゴは試合中、勝手にタクシーを呼んで帰ってしまった。
 このとき、日本一の歓喜の輪にいたのが西武で打ちまくったマヨであった。
 2人が東北の地で再会し、好調な楽天を、投打で支えている。その裏にあるのは、野村監督のすごさである。
 「作戦」を重んじる野村野球は面白いし、そのぼやきは、野球の娯楽要素のひとつに「言葉」があることを、落合とは別なアプローチでわからせてくれるが、それ以上に、フェルナンデスのことも、ドミンゴのことも、野村監督はマスコミを通じてさんざんけなしているのに、2人はよく働いている。これがすごい。

三沢順(みさわ・じゅん)