第24回 リオ妄想日記6 ル イ ス、 ロ マ ー リ オ、 そ し て ガ ザ


 リオ市街地での移動を引き受けてくれるルイスも、ファベーラ出身の元軍人。
 ブラジルには徴兵制があるが、志願者が多いため、ほとんどそれで定員が満たされるという。
 実際に徴兵されることは少なく、ルイスも8年間、職業軍人だった。パラシュート部隊に所属し、「いやっていうほどヘリコプターにぶらさがった」。
 地区の頼母子講にあたって、ローンを組んで買った車やパソコンを持ち、今だスラムに住んでいるとはとても見えない34歳だ。
 「ブラジルで史上最高のサッカー選手は?」
 「もちろん、ホマーリオ(ブラジルのポルトガル語は頭のRを「ホ」と発音する)だ」
 1000ゴールを達成した、エリア内で最高のきらめきを見せるロマーリオは、代表遠征の飛行機でセックスをしたり、サポーターを殴ったり、ホテルのベランダから観光客におしっこをひっかけたりとやりたい放題の悪童だった。
 「でも、ロマーリオは賭博に関係して、豪邸も奪われ、借金まみれなんじゃないの?」
 「いや、あれは財産の一部。まだまだ、うなるような隠しカネを持っているんだ」
 ロマーリオは6人子供がいて、6人目がダウン症の子だった。
 悪童は、リオでは異様なほどの人気があった。
 ルイスはそんな話を、運転中、両手を何度もハンドルから離し大きなジェスチャーを加えながら、教えてくれる。そして、左右を確認しながら、赤信号でも平気で突っ切っていく。
 リオの裏町の交差点では、人にとってだけでなく、ドライバーにとっても、信号は「参考情報」でしかないのだった。さながら、「赤信号 1人で無視しても 怖くない」。
 怖いのは、別なところにあった。
 運転中、ごくふつうの幹線道路にしか見えないバイパスで、「両側を見ろ」と言われた。
 よく見ると、知らないうちに、廃墟のようなアパートや崩れかけた長屋が並ぶ地区を走っていた。
 昼は何百台もの車がふつうに走っているのに、夜はギャングが占拠して、通行料金を取るから、絶対に近寄ってはいけないのだ、という。中途半端な摘発では、警察官の命がムダに失われる。
 だから、本気で掃討作戦をするとき以外は、事実上、野放しだ。
 しかも、両側のギャンググループがいがみ合いを続けているため、落ち着いた支配権も確立されていない。幹線道路をはさんで深夜、突如として銃撃戦が始まることもある。
 「この地区には別名がある。『ガザ』だ」
 道路の温度計が、39度を指していた。

三沢順(みさわ・じゅん)