第25回 リオ妄想日記7 ボサノバの凋落


 リオの夜、ボサノヴァがあまりに人気がないことに驚いた。
在住音楽関係者に言わせると、実際にボサノヴァが生で聴けるのはほんの3、4軒の店。
 そのうち1軒は、イパネマ海岸の観光地にある深夜バー。
 20人はいる店内は、確認できただけでもアメリカ人、ドイツ人、アルゼンチン人、ペルー人、スペイン人など。要するにお金持ちの観光客ばかりだ。そこでの演奏も、有名な曲をノリのいいふうにアレンジする観光酒場特有の「知ってる曲は全部やったでしょ」路線。
 もう1軒は、コパカバーナ海岸のすぐそばにある、5、6人しか入らないバー。ここは週1日だけ、ボサノヴァの日がある。5、6人しか入らないのに、どうやって演奏するのかといえば、客は全部、路上の簡易イスとテーブルで聴いている。
 「地元の人しか来ない店です」と言われた。
 驚いたことに、日本人のボサノヴァ・シンガーがいた。頼りなさげで切なそうに、でもしっかり歌う
 この人は日本人が少ないリオの夜には有名な存在らしい。
 最初、客が、拍手の代わりに両手の親指と人差し指とチッ、チッと打ち鳴らしているので、「受けたないのか」と思って、しっかり拍手したら、怒られた。「住宅街なので、騒音は禁止だ」ということらしい。
 日本人の彼は延々と演奏を続けた。ギャラはなし。修道僧のように暮らし、ボサノヴァを極めているという。カメラを持っていかなかったのが惜しまれる。
 ボサノヴァは踊れない、古い、ダサい、ノリの悪い音楽という感覚が定着しているらしい。
 一方、サンバは一回り時代が回って、新しい、かっこいい音楽として生まれ変わり、人気がある。
 ラパといういまいちばん人気があるサンバの名店にも連れて行ってもらった。
 タクシーが近づくと、街全体が暗い。どうやら長い停電の夜にぶちあたったようだった。

三沢順(みさわ・じゅん)