第17回 バリ島、朝粥、レストランのフランス料理と家庭の祭礼料理

×月×日 「地上最後の楽園」とか、「神々と芸術の島」といわれるバリ島へ7時間30分のフライト。今は、デンパサールまで直行便ができたから便利だ。
 210日に一度行われる「ガルンガン」のお祭りに合わせて日程を組んでもらった。バリはインドネシアの中でも、バリ・ヒンドゥーと呼ばれ、ヒンドゥー教徒が多い。カソリック、プロテスタント、イスラム、ヒンドゥーと四つの宗教があり、役所に届ける必要があるのだという。210日というのは、古いバリの暦に準拠しているからだ。
 バリ島の「文化勲章」といわれるダルマ・クスマ勲章を外国人として初めて受章した5人のうちの1人、芸能山城組主宰、山城祥二(脳科学者・大橋力)さんのご尽力によるものだ。
 島の中央部、ウブドにあるゲストハウスで、大橋さんの研究をサポートしている国際科学振興財団の主任研究員、河合徳枝さん、放送大学教授の仁科エミさんらの出迎えを受ける。いずれもバリの魅力に憑(と)りつかれ、バリと東京を往復して研究に勤(いそ)しんでいる人たちだ。
 こちらは、「食を創造する人、作る人、愛する人たちの文化ネットワーク」ゴブラン会の中村勝宏会長以下13人。中村勝宏氏は洞爺湖サミットの総料理長を務めた、ホテル・メトロポリタン・エドモントの名誉総料理長。
 総料理長の石田日出男さんや料理研究家の前島慶子さん、冬木れいさんなど錚々たるメンバーの末席に私がいる。

×月×日 夜は、フランス料理の「モザイク」。フランスの高級紙「ル・モンド」の著名なレストランガイド、「世界のベスト50」に、東南アジアで最初に選ばれ、バンコクのオリエンタルホテルのメインダイニングと共にエントリーされている。
 突出しは、マグロのタルタル風、牡蠣、キュウリ。前菜は、ハマチのカルパッチョ。特産のライム、真空調理で凍らせて水分を減らして、甘味を強めたスイカと香草のシャーベットが添えられている。
 インド洋産のロブスターに若布とリングイネを添え泡の出汁の上にキャヴィア。
 次はフォアグラ。テリーヌとサイコロ状に冷凍したまま小麦粉をまぶしてポアレした二種。付け合せは、ピューレ、キャンディ、チップと三種類に変化させたマンゴー。
 メインはオランダから取り寄せた仔牛のリドヴォー(胸腺肉)。チーズ、デザート。
 奥のアトリエでシェフのクリス・サランが、一皿ずつ我々を調理台まで呼んで、説明する。文字通りの、シェフズテーブル、というか、シェフの部屋で料理を食べている雰囲気。

×月×日 翌朝は朝粥、固形のエビの魚醤や島特産の香草を使った薬味、ゆで卵、蒸した鶏肉などを入れてスープを掛ける。
 スイカのジュース、マンゴステインとマンゴーは必ず食卓に並べられる。コーヒーはカップの底に細かい粉が残るトルココーヒー風。
 バリの正装に着替えて、ニョマン・スメルタ家へ。スメルタさんは、バリのウブドで美術館のような画廊を経営し、併設されているレストラン「テビ・サワ」が人気で、優秀な料理人を集めている。 
 インドネシア政府の要人がバリに来て、パーティーを開くときはスメルタさんの所へ料理人たちを借りに来るのだという。
「ガルンガン」の祝祭料理は、男が作るのが習わしで、朝の6時ごろから用意する。それを、見せてくれるというのである。
 日本でも、1月15日の「小正月」は、古くから「女正月」ともいわれ、男性が料理を作る地域が多かった。
 街の中は、「ガルンガン」お祭りに必ず飾られる「ベンジョール」と呼ばれる、日本の七夕飾りに似た幟(のぼり)が立っている。歩いている人たちも、ハレの日の装いで、どこかよそよそしさと華やいだ気分が横溢している。「ベンジョール」は聖なる山を模したとも、竜を模したものとも言われている。
石田日出男ホテルメトロポリタンエドモント総料理長(左)と。
 長袖の開襟シャツにサルン(更紗の布)を腰に巻き、上から飾り布のサプッを重ねる。いずれも右側を表にする「左前」だ。頭には、四角い布で、ウダンと呼ばれる帽子というのか、頭飾りを載せてもらう。
 スメルタ家に10時ごろ着くと、もう料理作りは始まっていた。(この項続く)(12・9・12)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。