第19回 「ポットラックパーティー」とイランの家庭料理

×月×日 左右社の80冊に迫る全既刊本を陳列するフェアが神田神保町の東京堂書店の3階で行われている。恥ずかしながら3冊ある拙著も数部に署名して並べてもらった。僅かではあるが、売れている気配があったので安心する。
 10月半ばまで開いているので、もう少し友人たちに声を掛けなくては。

×月×日 ホストの自宅に、ゲストの銘々が料理を持ち寄って開くパーティーを「ポットラックパーティー」という。ホストの方で、料理を指定することもある。今ならデパートの地下の食品売り場で買ったものを用意してもいいが、ここは自宅で何か心づくしの品を作って持参したい。そのうち、評判を呼ぶとアンコールの声が掛かって料理に「指名」が入るかもしれない。
 『料理が主役のポットラックパーティー シェフたちの持ち寄りレシピ』(誠文堂新光社)という本が出た。
 老舗のパン屋「浅野屋」の3代目社長、浅野まきさんをホスト役にイタリアン「パッソ・ア・パッソ」の有馬邦明、フレンチ「ル・ブルギニオン」の菊地美升、「銀座 寿司幸本店」の杉山衞、モダンスパニッシュ「スリオラ」の本多誠一氏らが、家庭で出来て、持ち運びが簡単なレシピを紹介している。
 編集者は、元「料理王国」編集長の土田美登世さん。いつも忙しそうに動き回っているが、笑顔を忘れないところがいい。

×月×日 長野まゆみさんの『あのころのデパート』(新潮社)を読む。東京のデパートに勤務した経験がある著者は、「昭和の家族のおでかけは、よそゆきでデパートに行くことだった」といいたいらしい。「お子様ランチを食べたら、屋上遊園地とおもちゃ売り場へ」というのが、定番のコースだったとか。
 著者の年齢を調べたら1959年生まれだ。昭和といっても、40年代後半のことだ。これで、「昭和のおでかけ」と一くくりにするのは、いかがだろう。終戦直後から東京オリンピックまでを昭和と思いたい70歳代の高齢者から見ると、へそがお茶を沸かしそうだ。
 最近、中国の寧波の街を歩いていたら、道端に有料の自動体重計があった。1元くらいの硬貨を入れて、自分の体重を測るのだ。各家庭に体重計が普及していないことを物語っている。昭和20年代のデパートにも有った。
 1970年代、ブルガリアのソフィアでは、露天で体重計を前に置いて日がな一日座り込んで、商売にしている人が居た。
 中国の発展は目を見張るものがあるが、ちょっとした微細なところに未開のニッチな部分が忘れられている。そこが中国の面白いところだ。

×月×日 大学の一年後輩で元よみうりランド社長、小谷直道君の七回忌(しちかいき)。銀座ブロッサム(中央会館)で。享年64は、あまりにも短かった。満由美夫人を囲んで、滝鼻卓雄元巨人軍オーナー夫妻、矢田美英中央区長など先輩後輩30人近くが集まった。学生時代の故人の思い出を語っているうちに、時間があっという間に経っていった。これからこの種の会が増えるのだろうな。

×月×日 形の良い秋刀魚(サンマ)がようやく店に並び始めた。今、最もおいしい魚は鰹(カツオ)だ。例年にない不順な天候で、今年ほど「魚暦(うおごよみ)」が崩れるのも珍しい。
 すし屋へ入っても、魚の種類が少ない。築地には有っても、高くて買うことができないのだという。飲食店業界は、どこからも景気の良い話しが聞えてこない。

×月×日 映画「イラン式料理本」を岩波ホールで。イランの家庭の情景と女性の思考をこれほど詳細に追求したドキュメンタリーはなかった。
 年代の違う七つの家庭の食事を作る光景を淡々と追っていく。具体的なレシピが説明されるわけではないが、伝統的な食文化が綿々と続いていることがわかる。
 男のために長時間料理を作り、片づけまで一人でこなす主婦は、日本のかつての女性像に共通する。そして、その食文化が変化していく状況も、日本に通じている。

×月×日 今回の尖閣諸島を巡る反日デモについて、日本に住む中国人のRさんから、「在日中国人のみならず、中国人の95%以上は、中国人の恥じとして心を痛めている」とFAXが入った。
 市民をメールで統制したり、破壊、略奪行為を放置するのでは、もはや法治国家とは言えないだろう。(12・9・25)


重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。