第27回 長崎チャンポン、「巴馬(バーマ)ロハスカフェ」、ボジョレーヌーボウ

×月×日 年末恒例の2012流行語大賞の候補として50語が発表された。50語全部が分かる人は、ネットに向きあっている時間がよほど長いに違いない。重篤な「ネット依存症」で、治療が必要だろう。
 40語知っている人は、毎日テレビを相当にチェックしているはずだ。30語知っている人は新聞を購読し、ネットを日常、ある程度利用している人。20語を知っている人は、新聞しか読んでいない人で、10語以下の人は、マスメディアとまったく接点はなく、霞を食べて生きている「現代の仙人」と言っていい。
 本コラムで取り上げた言葉は「キラキラネーム」くらいだ。
 
×月×日 中国の万里の長城トレッキング・ツアーで3人の方々が亡くなった。ツアー会社が盛んに悪者になっているが、ツアー会社を責めても致しかたない点もあるように思える。確かに2009年に北海道十勝のトムラウシ山で、ツアー参加客8人の遭難死亡事故を起こした「前科」が旅行会社にはあるから、余計に糾弾されるのはわかる。
 しかし、参加者がわずか4人で、よく催行したものだと思う。よほど料金が高く設定されていたのか。また4人の年齢が問題だ。76歳の男性に、女性が68,62,59歳、結果的に最も若い女性だけが生還した。死者に鞭打つわけではないが、高齢者のほうから先に脱落して他の人の足を引っ張った、という情報もある。
 ツアー会社の責任もさることながら、参加者の自己責任も問われるわけで、高齢者は他の人に迷惑を掛けぬよう、心がける必要がある。私も大いに自戒しなくてはならない。
 しかし、あまり他人に迷惑を掛けないことばかり意識していると、「年寄りの引きこもり」につながるのかもしれない。いずれにしても、高齢者の生き方と死に方というのは、厄介なものだ。

×月×日 日本出版美術家連盟(会長・濱野彰親氏)主催の、「粋美挿画展2012」を神田の「東京堂ホール」で観る。濱野氏の他、昨年亡くなった堂昌一氏の作品が展示されていた。画稿をいただきに行ったことを懐かしく思い出すが、自分の恥部を見せられたような恥ずかしさも感じる。
 あの時、もっとああしておけばよかった、こうしておけば……という反省の念がこみ上げてきた。

×月×日 「喪中はがき」を送るのが早すぎると、前回に書いたら、もうお歳暮が届いた。まだ立冬になったばかりの11月前半だ。デパートのセールスプロモーションの効果なのだろうか。今年は残暑が厳しかったから、気分としては、ようやくお中元が終わったところなのに。

×月×日 京王線の芦花公園のそばにある世田谷文学館へ、「齋藤茂吉と『楡家の人びと』展」を観に行く。北杜夫が雑誌「新潮」の昭和37年1月号に『楡家の人びと』を発表するとすぐに三島由紀夫から届いた激励のはがきが陳列されている。よく残っていたものだ。「桃子といふ少女は、何といふ可愛い、魅力のある少女でせふ」とある。
さらに昔の齋藤茂吉と芥川龍之介の往復書簡も展観されている。日本文学史の貴重な資料だ。
 帰路は京王線の下高井戸駅から久しぶりに東急玉川線で三軒茶屋へ。「来来来」でちゃんぽん。すぐに座れた。やはり人気のある店は、どこか雰囲気が違う。
 今さらかもしれないが、ちゃんぽんと皿うどんは、「静かなブーム」ではないかと思う。

×月×日 大手某信託銀行の自由が丘支店から電話。このたびお客様がお住まいのヒラ町の担当者が退社いたしまして、私が担当することになりました。「ヒラ町でなく、タイラ町だッ!」と言っても、別に悪びれた様子はない。
 自分の担当地区の呼び方も分からずに、よく仕事を引き継いでやっていけるものだ。上司の教育の問題だ。電話を切ってから、「イチハチジュウ町」と呼ぶのだ、と言えばよかったと気づいたが、後の祭り。

×月×日 文芸評論家の温水(ぬくみず)ゆかりさんが、拙著『愚者の説法 賢者のぼやき』(左右社)を月刊誌「ゆうゆう」(主婦の友社)に取り上げていただいた。感謝。
 温水ゆかりさんや左右社の小栁学さん、フリー編集者の邨野(むらの)継雄さんに朝日新聞社の文芸書籍担当のOB編集者、現役記者を交えて銀座の「巴馬(バーマ)ロハスカフェ」で早めの忘年会。話題は、丸谷才一、佐野眞一、塩野七生、司馬遼太郎の各氏など。

×月×日 今年も、ボジョレーヌーボウの解禁日となり、安売り店では、490円とか598円という品も出た。当然ペットボトルで、本家は認めたくはないのだが、日本は大顧客だから認めざるを得なかったようだ。
 産地のブドウは不作という情報だったが、日本人のお祭り好きとフランス志向のおかげで、例年と同じように盛り上がった。
 年年歳歳、月日の過ぎるのが早くなる。(12・11・21)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。