第29回 そば屋のトッピング、焼き鳥屋のシャンパーニュ、牡蠣と金針菜のオイスターソース炒め、鯖の締め具合、

×月×日 中目黒のある蕎麦屋で見た光景だ。壁に「つけ麺」と記され、鴨汁、天ぷら、野菜とある。ラーメン屋じゃないのだから、「つけ麺」はない。もり蕎麦やざる蕎麦もいちいち「つけ麺」と断るのか。
 机の上のメニューを開いたら、「トッピング」とあり、生卵、温泉卵、天かすなどとある。これも、ラーメン屋から来たのだろう。
 私はピザにも、トッピングなる言葉はなじまないと考えている。
 そういえば、茹で加減を硬め、軟らかめと注文を付けている馴染みらしい客がいた。これもラーメン屋の影響を受けている。ゆで時間が秒単位の蕎麦の場合、硬軟はあまり意味がない。それより、早く食べるほうが重要だろう。

×月×日 プロ野球で伯父さんが監督をやっているという理由からなのか、ドラフトの一位指名を蹴って、一年間「浪人」した選手が、念願かなって入団記者会見に臨んでいた。「このユニホームにプライドと誇りを持って頑張りたい」と発言していた。プライドと誇りは、恐らくこの選手の中では区別できているのだろう。
 野球の実力と国語力はまったくの別物というのは百も承知しているが、あまり期待はできそうにない。

×月×日 シンガポールに「釣魚島」(尖閣諸島の中国名)というパン屋兼カフェができ、中国人や韓国人のお客で、込み合っているとのこと。店内には縷々(るる)説明が貼り巡らされているそうだ。シンガポール在住の友人が知らせてくれた。

×月×日 自由が丘の焼き鳥、「おか田」。六本木から移転して1年以上が経過した。ネギマ、皮、ハツ、レバ、ツクネに椎茸、獅子唐辛子。念の入った仕事ぶりだ。
 シャンパーニュが9,000円とメニューに有った。

×月×日 競馬のジャパンカップは、牝馬のジェンティルドンナと牡馬のオルフェーヴルの一騎打ちとなり、鼻差でジェンティルドンナの勝利となった。4キロの斤量差が有利に働いたともいえるが、問題はジェンティルドンナの「斜行」にあった。明らかに馬体を寄せられたオルフェーヴルは、飛び上がるようにして速度を落とした。発走から最終確定まで26分も要したという異例の長時間の審議だった。
 負けた池江調教師と池添騎手は、納得がいかないだろう。勝った岩田騎手も後味が良くないはずだ。2日間の騎乗停止処分で、降着はなかった。
 過去にもG1レースで、ゴール板を1位で通過しながら「降着処分」を受けた馬は3頭いる。
 この前例と比較して、妥当な処分だったのか、きちんと精査してもらいたい。10万人近い観客が入場しているのだから、ひとたび騒ぎが起きたら大変なことになる。主催者はそれを最も恐れるところだろうが、毅然たる裁決がなされることを願うばかりだ。

×月×日 丸谷才一が作っていたのも同然の毎日新聞の書評で、また書評委員同士の「仲間褒め」をやっている。三浦雅士氏が渡辺保氏の『私の歌舞伎遍歴』(8月刊)を取り上げていた。
 いい加減に「みっともない」ことに気づかないと、いつまで経っても丸谷才一の功績に傷がついたままになる。読者のためよりも丸谷のために書評を書いていると、批判のあった「悪弊」はいつになったら、改善されるのか。もっとも、今回の「組み合わせ」は丸谷の最後の「遺産」かもしれないが。

×月×日 東急大井町線の緑が丘駅前の「頂好」で、テニス仲間の忘年会。長いこと祐天寺駅の近くで店を開いていたが、自由が丘に移転し、緑が丘に移った。
 牡蠣と金針菜(きんしんさい=百合の花のつぼみ)のオイスターソース炒めが美味しかった。鱈の白子と真子の煮込みは、助宗タラの白子と真子だった。マコはともかく白子は真鱈に比べると、味は落ちる。小龍包(しょうろんぽう)と炒飯で、満足、満腹。皆さんの酒量がだんだん落ちてきた。悪い傾向ではない。

×月×日 久しぶりに学芸大学の「すし処 小倉」。小学校時代の友人3人と会食。主人の小倉一秋さんは千葉県野田の出身。大量の塩を撒くことで人気上昇中の関取、旭日松(あさひしょう)も同郷だ。自由が丘の「羽生」から独立して、もう5年が経った。いいお客さんを掴んだようで、これからが本当の勝負だろう。
 9月ごろから鯖がずっと好調で、たまたま締め加減が好みに合った。人によって好き好きだが、浅めの締め具合が流行りのようだ。穴子、平すずき、小肌も良かった。

×月×日 いつも利用する東急東横線の車内で、「学芸大学駅の重量化工事のため、電車の停車位置が変更になりました。皆様のご理解とご協力をお願いします」とアナウンスしている。
 駅の重量化とは、はて面妖な、と思ったら、「十両化」だった。来年3月の渋谷駅での地下鉄副都心線との相互乗り入れにともない、急行はすべて十両編成になるので、ホームを延ばしたのだ。
 こんなことで、理解だ、協力だとは大げさだ。(12・12・5)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。