第38回 すきやばし次郎 ブリ大根 團十郎 POSシステム チョコレート 「ザ・流行作家」

×月×日 映画「次郎は鮨の夢を見る」。鮨屋、「すきやばし 次郎」のドキュメント。店主の小野次郎氏と二人の息子兄弟、スタッフなどの仕事ぶりを追っている。
 今度来てみたいからと、初めて店の入り口まで来た人に、「握りだけで、30,000円からです。つまみはありません」と、説明していた。
 なぜ「30,000円の値が付くのか?」を知りたいのだが、答えはない。
 小野次郎は、フランス料理のシェフ、ジョエル・ロビュションの味覚は素晴らしい、と絶賛している。そんなに自分が握った鮨をフランス人に褒められてうれしいのか。
 ロビュションを案内し、この映画にも関係している仕掛け人はさる有名料理評論家。小野次郎は魚を見る目は利いても、人間を見る目は無いに等しい。

×月×日 今冬は天然の鰤(ブリ)が豊漁だったのでかなり食べた。もう氷見を離れて南下しているようだ。「ブリ大根」も、3回ほど作った。NHKの料理番組で、京都の料亭「瓢亭」の息子が、ブリと大根を別々に煮て、最後に合わせる「ブリ大根」を紹介していた。
 料亭の技法だが、店の献立にあるのか、どうかは知らない。ブリは惣菜の魚だから、料亭で出されたら、私は落胆して食欲は減退する。

×月×日 市川團十郎が亡くなった。4月に杮(こけら)落としが予定されている新歌舞伎座は、どうも祟(たた)られているようだ。中村勘三郎に次いで、大看板がまた消えたことになる。
 朝日新聞で、さる演劇評論家(元朝日新聞記者)が、「不器用な面があった」と、追悼の談話を載せていた。
「口跡がよくない」と言う人はいたが、「不器用」という批判は聞いたことがない。もう少しまともな「談話」は取れなかったものか。

×月×日 税金の季節となった。年金生活者にも遠慮仮借(かしゃく)なく、税金の網が被せられる。ちょっと古い新聞記事だが、ブルガリアではスーパーマーケットなどのPOS(point of sale system)システムが、国の税務局に直結しているのだという。POSシステムとは、バーコードと光キャスナーで瞬時に販売情報(商品の価格、数量、時間などの他、顧客の性別、年齢、当日の天候など)を管理センターに送信する。
 それが、税務署に直結していたら、税金の取れ漏れはない。ブルガリアの税務当局は、税収がアップしたと、にんまりしているらしい。しかし、それもどうかなあ。
 同情はしないし、罪は厳しく罰せられなければならないが、タレントの坂東英二みたいな人がいるから人間的な社会が機能するという面があるのも事実だろう。

×月×日 デパートでは、チョコレート売り場が大変な賑いだ。男性のためより、女性の友人同士でプレゼントするのがトレンドらしい。ホワイトデーのお返しは、3倍返しが相場だとか。誰が決めたのか。デパートの商魂に踊らされているような気がする。
 昔、さる大学に勤めていた時、事務局の人たちのメールボックスにチョコレートの包が置かれていた光景を思い起こす。同僚の見る人が見れば、義理チョコなのか、本命チョコなのか、分かるのだろう。今でも中学生なら靴箱なのだろうか。
 小学校の3年生くらいでも、手作りのチョコレートが行き交っているそうだ。

×月×日 校條剛(めんじょう・つよし)氏の『ザ・流行作家』(講談社)を読み始める。毎月、1,000枚の原稿を書き続けた川上宗薫と笹沢左保について、執拗に軌跡を追っていく。若い人は読んだことがないし、2人の名前も知らないだろう。笹沢左保は、座ると眠ってしまうので、立ったまま原稿を書いたという逸話を残した作家だ。
 家族も知らないことが書かれている。もちろんプライバシーには配慮しているが、森村誠一さんの「作家は家族だけのものではなく、公の存在なのです。家族が独占してはいけないのです」という言葉をよりどころにしている。
 本筋ではないが、講談社の編集者、玉川総一郎さんの死を本書で知った。やはり文芸編集者だった故・金子益郎と、「百歳バッテリー」を組んでいた。合掌。(13・2・14)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。