第42回 ハマグリ、唐墨、フォアグラの煮凍り バルサミコ醤油  若竹煮 フカヒレ丼 シャトー・ラフィット・ロートシルト 1988

×月×日 築地の魚河岸の名物女性、福地享子さんと久しぶりに、銀座の「いまむら」で。
 お椀は蛤(はまぐり)の真薯(しんじょ)。
 先代からの技法を忠実に守っている。
 雛祭りの時だけ、蛤の値が跳ね上がる。環境省は昨年の8月にハマグリの在来種を絶滅危惧種の第2類に指定した。東京湾などでは、稚貝を育てて育成に励んでいるが、先行きは不安だ。
 焼き物は、これも季節の桜鱒(さくらます)の黄身焼き。煮物は、竹の子と蛸(たこ)。寒暖の差は激しいが、食卓の上では、春が近づいている。

×月×日 さる日本料理の店でのワイン会。
▽膳菜 八寸の盛り合わせから始まった。唐墨と大根、白魚梅おろし、スモークサーモン、海老艶煮、フォアグラ煮凍り、蟹酢蕪巻、筍木の芽和え土筆、厚焼玉子、菜花
 唐墨は小さな「かんてき」(焜炉の関西風呼び名)で軽く火取る。一般的に魚卵はワインに合わないが、火取ることで香ばしさを出している。筍の木の芽和えに添えられた土筆も煎ってあるので、程よい苦さがワインを邪魔しない。
▽お椀 ふく白子丸吸 白髪葱 露生姜
 河豚の大きな白子を焼き、すっぽんの汁に。
▽お造り 鯛、中とろ鮪、細魚(さより)、烏賊。
 あしらいは、花穂、酒海苔、ラレシ、玉人参、玉長芋。
 付け醤油は、土佐醤油、バルサミコ醤油、岩塩、山葵。
 ここにもワインを意識した工夫がある。バルサミコ醤油は、細魚にぴったし。ラレシはラディッシュの関西料理屋風の呼び方。
▽箸休め 稚鮎の焼揚げ タラの芽天ぷら 山椒塩
 稚鮎を素焼きして、揚げてある。なるほど。ここまで手をかければ、養殖の臭みが消える道理だ。
▽焼物 黒毛和牛のローストビーフ
 ジャガイモ、人参、伏見唐辛子、山葵
 これも贅沢な一品。和風の餡というかソースというか汁がワインの量を進める。 
▽焚合(たきあわせ) 筍 若布 蕗 木の芽
 春に出会う、山の幸と海の幸の饗宴だ。
▽御飯 ふかひれ姿煮御飯
 赤出し 香の物
 ご飯は白い御飯の上に揚げたもち米のあられを載せ、
 ふかひれの姿煮が和風の餡とともに載っている。美味。
▽果物 季節の果物ゼリー寄せ サバイヨンソース添え
▽お菓子 鶯餅
 さて、ワインだが、口開けはシャンパーニュ フランソワ・エマール、アンリ・ジロー(マグナム)。
 白ワインはピュリニー・モンラッシェ・フォラティエール2009、ムルソー・シャルム ルロア1997、ヴィノテーク グリューナー・フェルトリーナ ニコライホーフ(オーストリア)1993
 赤は、ボルドーがラ・グランジュ・ヌーブ・ド・フィジャック1999、シャトー・ラフィット・ロートシルト1988。 
 ブルゴーニュがシャンベルタン アドリアン・ペランとニュイ・サン・ジョルジュ・レ・ダモード(ドメーヌ・マシャール・ド・グラモンで両者とも1988
 締めのシャンパーニュはベル・エポック ブラン・ド・ブラン2002
 奇しくも、赤の3本は1988の競演となった。男女4人ずつで計10本を飲んだことになる。皆さん、強い、強い。それに健啖家だ。

×月×日 4月6日から始まる「時代劇専門チャンネル」の「池波正太郎の江戸料理帳」の出演依頼があり、俳優の笹野髙史と対談。料理監修は、「分とく山」の野﨑洋光さん。
 なんのことはない、野﨑さんとの共著『池波正太郎の江戸料理を食べる』(朝日新聞出版)の映像化だ。放映日は4月20日だとか。

×月×日 あまり盛り上がらなかったWBCの侍ジャパンがサンフランシスコで行われる最終ラウンドへの進出を決めた。台湾やオランダ、イタリアなど野球の途上国の進歩は目を見張るものがある。
 世界が動いて、較差が縮まっていることを実感する。もちろん、野球だけに限ったことではない。(13・3・13)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。