第43回 カニかま、北原亞以子さん、石の会、WBC,台北、和みの彩り空膳

×月×日 日本水産(ニッスイ)の広報誌「GLOBAL」を読んでいたら、「世界に広がる日本発のねり製品」という記事が目についた。「カニかま」だ。
 1973年というから、40年前に「カニかま」は登場した。魚のすり身を使うわけだから、カマボコ、さつま揚げ、ちくわ、フィッシュソーセージなどと親戚筋に当たる。欧米人は、プリプリ感やシコシコ感が、ガムをかんでいるようで、なかなか受け入れられなかった。
 しかしカニかまを糸状繊維に成形した製法が成功し、一躍世界に認められるようになった。日本が開発した技術は、あまりにも本物のカニに似ていたので、流通業者が見間違ったという笑い話もあるほどだ。
 カニそのものの資源が不足していることもあり、高価な食品だから、フェイク(まがいもの)が認められた。レストランのサラダバーに置かれるようになってから、人気があがったという。パスタやサンドイッチ、スープなどの具材としても重宝されている。
 今や、日本語の「すりみ」は、「SURIMI」となり、ヨーロッパで「カニかま」を指すまでになった。すりみに塩分を入れて冷凍することで、弾力性がますことが発見され、いまや主流は「冷凍すりみ」に移っている。優れた食品タンパク質加工素材で、インスタントラーメン、レトルト食品と並ぶ20世紀の食品産業における三大発明といわれる。
 世界最大の生産量を誇る企業はリトアニアにあり、日本の消費量を上回る生産高だという。そのうちに「すりみ」資源の減少が問題になることは間違いない。

×月×日 直木賞作家で、吉川英治文学賞も受賞した北原亞以子さんが亡くなられた。大きな手術をして体調がすぐれないことは知っていたが、復帰の声も聞こえていたので、惜しい思いでいっぱいだ。
 有馬頼義(ありまよりちか)さんが主宰していた、若手作家の会「石の会」の同人で、渡辺淳一さんを通じて知り合った。今は無いが、銀座の文壇バー「C」で、よく顔を合わせた。講談社の大村彦次郎さんらと一緒だった。
「石の会」には、色川武大、早乙女貢、五木寛之、高井有一さんらがたむろし、立松和平さんが最年少だったはずだ。北原さんは、紅一点と言ってもいい、希少な女性だった、
 連載の仕事をする機会は無かったが、2007年の秋に、お話を伺ったのが最後だった。
 朝日文庫の「池波正太郎エッセイ・シリーズ」(全7巻)が新装版を刊行するので、巻末対談をお願いしたのだった。
 そこで、私が「石の会」について、「どんな雰囲気の勉強会だったのですか?」と聞いている。
 北原さんは、「勉強会なんてものではなく、有馬先生が、これはと思われた作家に声を掛けられて、集まっただけなんです」と答えている。
 マージャンもこの会で教わったそうで、人生や人間の勉強に役立ったそうだ。
 石の会の同人も、色川武大、早乙女貢、立松和平、北原亞以子さんらが鬼籍に入られたことになる。合掌。

×月×日 WBCの準決勝で、日本はプエルトリコに敗れ、3連覇の夢は消えた。
 内川選手の「暴走」が非難の的になっている。2塁走者を見ることなく「猪突猛進」した内川の走塁センスは、お粗末すぎるが、そんな「行けたら行っていい」というあいまいなサインを出した監督が悪い。
 打者は4番で左打ち。2点差、しかも相手の捕手は強肩ときているのだから、いくら相手投手のクイックが下手と言っても、重盗の選択肢はセオリーにない。そんな監督を留任させる声があるそうだ。
 野球評論家の江本孟紀氏は、「現場を離れていた人が監督を務めることがそもそもの間違いで、12球団の現監督とコミッショナーに責任がある」とサンケイスポーツ紙で指摘している。その通りだ。現場から長期間離れているコーチも問題だ。それにしてもコミッショナーの無能力は目に余る。
 工藤公康氏(テレビ朝日系)と桑田真澄氏(TBS系)の解説を聞けたことだけが収穫だったのでは、あまりにもさびしい。

×月×日 ワイン仲間7人で台北へ。
 日本航空午前8時30分羽田発の便なので、機内食は、朝食、昼食兼用のブランチ。日本航空では、この日からメニューを「和みの彩り空膳」と名付けて改善したという。中国語では、「甜蜜華麗天空餚饌」。大げさな感無きにしも非ずだが、内容は充実していた。
 少量ずつ盛った6種の小鉢のセンスがいい。 
・野菜の煮物と厚焼き玉子、がんもどき含ませ煮、梅人参煮。
・中華風サラダ、小海老添え、ピリ辛クラゲ、キュウリ、ワカメ。
・豚肉唐揚げ、中国風あん、ミニオクラ。
・桜漬け千切り。
・小松菜ナムルと肉団子。
・あわび茸時雨煮、竹の子土佐煮。
 アジア諸国の食文化を取り入れた国際的配慮が泣かせどころだ。極め付きはご飯で、赤魚の塩焼きとひじきの炊き込みご飯。ひじきご飯は、食べたことがある人はそんなに多くはない筈だ。反応は、概して好意的。ご飯を全部食べてしまい、夜の食事に差しさわりが出た人もいたほどだ。ビールを2缶の女性もいれば、ワインを白赤2本の男性もいて、うとうとしているうちに着いた。
 台北の松山(しょうざん)空港の出入国管理の職員の態度も友好的で顔の表情もきわめて柔和だ。どこの空港でも飛行機会社に預けた手荷物はターンテーブルに出てくるが、荷物を整理する空港の職員は、一つ一つトランク類の取っ手を旅客の方に向けて並べ直している。こんな気配りをする空港は見たことがない。(この項続く)(13・3・21)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。