第45回 台北「美麗華」の焼売、餃子、蓮根餅。銀座「カシュカシュ」の「フォアじゃが」、木村荘八展、千曲川ワイナリー、羽立昌史さんの「魚籃」、世界ソムリエ・コンクール

×月×日 台北松山国際空港近くにある台北最大の濱江市場へ。肉類、魚介、青果類が併存している。飲食店などのプロも一般消費家も利用できる。エビ、カニ類を初めとして活魚も多い。タラバガニの活魚があるということは日本あたりから輸入しているのだろう。或いは、アメリカから「直に」来ているのか?
 1911年の辛亥(しんがい)革命から現代までの英霊33万人を祭る「忠烈祠(ジョンリエツー)」へ参拝。ここでも、衛兵交代式が行われる。式終了直前、6キロはある本物の銃剣を一人が落してしまった。すぐに、付き添いの私服の兵隊が予備の銃剣をすばやく渡した。落とした銃剣は後から付き添いが拾っていた。大相撲の弓取り式ではないが、なにか験(げん)を担ぐようなしきたりがあるのかもしれない。
 観覧車もある新しいショッピングモール、「美麗百楽園」内の「美麗華」で飲茶の昼食。故宮博物館にも近い。赤ワインを飲んでいる若い人たちの姿も多い。すっかりおなじみになった台湾ビールで、焼売、餃子、焼きそばなどを満喫。お茶はジャスミン茶とプーアル茶。
 折しも結婚披露宴が行われていた。どこの国でも花嫁姿を見ると、幸せな気分になる。
 3時30分発の日本航空機で帰国。桜花がかなり開いていた。

×月×日 左右社から出版された『NPOの経営は工夫次第—事務局長の満足と心残り』の刊行に際して、少しばかり面倒をみたので、著者の川口善行さんが、御馳走してくれるという。久しぶりに銀座のビストロ「カシュカシュ」へ。 
 オーナーシェフの斎木辰也さんは、「アピシュウス」出身。名物の「フォアじゃが」の人気が高い。

×月×日 新装なった東京駅丸の内北口の東京ステーションギャラリーが再開されたのを記念して、「木村荘八(きむら・しょうはち)展」を観にゆく。生誕120年とのこと。
 永井荷風の『濹東綺譚(ぼくとうきたん)』のさしえ(「朝日新聞」1937~41年)の原画が面白い。印刷効果を上げるために、ケント紙にエナメルを塗ったり、といった実に様々な工夫の跡が看て取れる。
 当時はまだポスターカラーといった画材が無かったのだろう。白い部分や白の諧調を浮き出させるために、胡粉(ごふん)を使用している。
 今の若い人には、胡粉といっても分からないだろう。貝殻から作る顔料の一種だ。最近ではネイルアートにも用いられるらしい。
 黒く塗った部分を、ナイフで削りとった跡も見える。細かい線を何本も入れることで、銅版画(エッチング)のような効果となる。
 弟子の三井永一画伯にその技法と画風が継承されている。また、「ろくさん」と親しまれた大食漢の漫画家、六浦光雄も木村荘八の影響を受けた。
 荘八の父親、荘平は艶福家で、「いろは」という牛鍋家を、関係の会った女性にそれぞれ経営させた。今でいうところのチェーン店だ。後に東京市会議員も務めた。荘八も、「いろは」の何号店かで育ったわけだが、1932年に画かれた油彩画の「牛肉店帳場」(北野美術館蔵)は、往時の面影を残す貴重な資料的価値がある。

×月×日 玉村豊男さんから『千曲川ワインバレー—新しい農業への視点』(集英社新書)の恵投を受けた。玉村さんの影響を受けて、近くにワイナリーを作りたいと希望する人が増えているのだという。
 アメリカでも、ワイナリーの経営は、老後に有終の美を飾る憧れの事業の一つだ。フランシス・コッポラの例をみても分かる。
 まず農地を確保してブドウを育てながら技術を習得し、うまく収穫できるようになったら、そのブドウを近隣のワイナリーに持ち込んで醸造してもらう。
 玉村さんは、新規参入者は既存のワイナリーを「ゆりかご」として育っていくと言う。玉村さん自身も、そのような道を歩んで来た。
 ひとまず成功した玉村さんは、今度は自分が「ゆりかご」となるために、施設を拡大する計画を立てている。折しも、「信州ワインバレー構想」を長野県もスタートさせるそうだ。
 将来、ワイナリーのオーナーを目指す人には必読の書だ。

×月×日 オザミグループの「ブラッスリー丸の内」や「ブラッスリー ソラマチ」店のシェフを務めていた羽立昌史さんが、独立して白金高輪に「魚籃(ぎょらん)」というカウンターだけの小さな店を開業した。
 フォアグラのテリーヌは、「名人」といわれるだけあって白眉の出来栄え。白アスパラガスなどの前菜も良かった。茨城県笠間市のカルガモ、千葉県の仔鹿などのジビエも念が入った仕事だ。次回は、オマール海老に挑戦してみよう。肩と肘を張らずにフランス料理を食べられる店が増えることはいいことだ。

×月×日 第13回世界ソムリエ・コンクール東京大会の決勝戦。日本代表の森覚(もり・さとる「トゥールダルジャン」)さんは、惜しくも予選で敗退してしまった。決勝戦に進出したのは、アリスティード・スピーズ(ベルギー)、ヴェロニク・リヴェスト(カナダ)、パオロ・バッソ(スイス)の3氏。
 準決勝には、「用意された鰻丼(うなどん)を食べて、2種ある赤ワインのどちらを勧めるか」という問題が出た。一つはタンニンが少ないフルーティーな赤ワイン。もう一つは、フルボディのタイプ。多くの人は前者を選んだ。
 ワインジャーナリストの柳忠之さんは、鰻丼に粉山椒が使用してあったか、どうかで微妙に違うのでは、と鋭い指摘をしていた。
 日本人には、鰻丼で赤ワインを飲む機会はほとんどないから、何とも答えようがない。まあ、「正解」を決めるような問題ではなく、赤ワインの質を理解した上での説得力と説明力がポイントなのだろう。
 決勝戦のブラインド・テイスティングでは、トマトのリキュールが出されたが、正解者はいなかった。中国の茅台酒(マオタイ)は「ショウチュウ・シノワ(中国風焼酎)」と呼ぶらしい。しかし、中国人は納得しないだろうな。
 結局、スイスのパオロ・バッソ氏が優勝し、紅一点のカナダのヴェロニク・リヴェストさんは惜しくも2位だった。(13・4・3)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。