第46回 コンサル、アンケ、佐伯泰英、国民栄誉賞、ヴィーニョヴェルデ、エープリルフール

×月×日 コンサルタントを「コンサル」と略すようになったのは、いつのころからか。どうにも気に入らないので、使ったことは無い。字数に制限のある、新聞の見出しから使われ出したのだろうか。
 日本人は昔から文章や単語を略すのが、好きだ。落語にある「あたぼうよ(決まりきったこと)」は、「当たり前よ! べらぼうめ」を略したとされる。「べらぼう」というのは、江戸期の寛文時代に見世物に現れた異形の人間「便乱坊(べらんぼう)」から生まれた、人をののしる言葉、というのが定説だ。
 産地直送を「産直」、サラリーマン金融は「サラ金」。出先から、会社に戻らず、直接帰宅するのは、「直帰」だし、パーソナル・コンピューターは「パソコン」、コンビニエンス・ストアは「コンビニ」、コミックス・マーケットは「コミケ」。「オリラジ」とはお笑いコンビ「オリエンタルタジオ」の略だ。
 ゼネラル・コントラクター(総合建設会社)はゼネコン。無線操縦の玩具は、ラジオコントロールから、「ラジコン」。合同コンパは、「合コン」。そもそも「コンパ」は、英語のコンパニー(仲間、交際)の略だ。
 マザー・コンプレックスは「マザコン」、ロリータ・コンプレックスは「ロリコン」どうも、4文字で一番下が、「ン」の撥音(はつおん)で終わると格好が付くようだ。
 「ボディコン」は、「ボデイ・コンプレックス」、ではない。「ボデイ・コンシャス」で「体を意識する」意味だ。こんなことを挙げていくと際限がない。
 外来語ばかりではない。最近は、「就職活動」を「就活」、「結婚活動」を「婚活」。「終活」とは、「人生の終末を考える」活動で、葬儀、遺産相続、お墓などを用意することだそうだ。
 そんなことを考えていたら、東京新聞の紙面の見出しに「職員アンケ 不当行為」と有った。「ケ」と「不」の間が微妙に空いているので、「アンケート」の略だと分かった。橋下徹大阪市長の組合アンケートについて、大阪府労働委員会が不当行為と認定したニュースだ。
「コンサル」にも抵抗感を覚える私にとって「アンケ」は、とても容認できる言葉ではない。新聞が、見出しの字数に固執するあまり、勝手に単語を省略するのは、止めてもらいたい。見出しの体裁もそろそろ考え直して、新しいスタイルを模索する時代ではないかと思う。

×月×日 元祥伝社の編集者、猪野正明さんの訃報が届く。佐伯泰英氏に時代小説を書かせた編集者として、記憶されるだろう。
 佐伯氏はスペインに滞在し、闘牛を取り続けるカメラマンとして一部に知られていたが、それだけでは食べていけなかった。
 国際冒険小説やスパイ小説を書いても売れず、「最後通告」として、「後はポルノ小説か時代小説しかない」と猪野さんが言ったところから、再生した話は有名だ。
 流行作家誕生に功績のあった編集者の死は悲しい。

×月×日 国民栄誉賞に長嶋茂雄氏と松井秀喜氏の二人が選ばれたのには、驚いた。長島茂雄氏はともかくとしても、松井秀喜氏は若すぎる。これから、どこかの球団の監督やコーチをやって、失敗するかもしれない。
 その場合はどうなるのか。やはり、国民栄誉賞の肩書を重く感じるのではないか。本人は、このまま何もしないで、じっとしていることは無いだろうから、悲惨だ。
 今回の選考に渡邉恒雄氏と中曽根康弘氏の影がちらほらする。どうも素直には喜べない。困ったものだ。

×月×日 東京ビックサイトで開催中の「ワイン専門総合見本市 ワイン&グルメ」へ。ポルトガルワインを専門に扱っている播磨屋のブースで代表の川西和世さんと商談ならぬレクチャーを受ける。アヴェレーダ社との共同出展だ。
 最近は大手商社が大量に買い付けるようになって苦戦しているとのこと。古くからポルトガルワインに着目して、細々と続けている店だけに健闘してもらいたい。
 スペインのリアスバイシャス地方に近い北部ミーニョ地区のヴィーニョヴェルデ(緑のワイン)は、アルコール分も少なく微発泡で、これから蒸し暑くなってくるときのアペリチフに最適だ。

×月×日 東京陶芸展(東京クレイワークス主催)を観に、JR王子駅前の「北とぴあ」へ行く。このネッセイのタイトル文字を書いている原田百合子さんが、自作のデカンタ2点を出品している。

×月×日 東京新聞によれば、月刊美術誌「ギャラリー」のコラムで、さる美術ジャーナリストが「東京都現代美術館が閉館」という趣旨の記事を寄稿、掲載したが、「事実無根」で、4月馬鹿の企画だったと、謝罪したという。寄稿家は、「4月1日のこと」とヒントまで記したのに、「エープリルフールのジョークが分からない方々を騒がせてしまった」と言って、さらに「怒り」を買っているようだ。
 月刊誌でエープリルフールの冗談は通じない。内容も、冗談のセンスが欠けている。ネット上でも「ダイオウイカの天ぷら」など、かなり4月馬鹿のネタが騒がれた。
 これからは、CG(コンピューター・グラフィックス)などが登場して、ますます「悪ふざけ」が、流行するかもしれない。
 エープリルフールは、真面目な国民性を持つ日本人に、なかなかなじめない外国の風習だ。作るのも下手だし、受け取る側にもそれなりの「ゆとり」を持たないと、成り立たないのではないか。(13・4・10)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。