第47回 コロンブスの台所、白海老、メバル、筍、九十九餅、マグロの唐墨、チェリーブランディー、魚彩文庫

×月×日 BS日本テレビの「世界発! コロンブスの台所」(木曜夜9時)の第1回(ジャガイモとキャベツ)を見た。BS朝日の「中村吉右衛門が案内役の「美味しさの物語 幸福の一皿」とテレビ朝日(地上)の「食彩の王国」を合わせて、国際版にしたような番組だ。
 案内役は中村橋之助で、チャラチャラしたタレントの食べるシーンがないところがいい。期待していたが、第2回を見損なってしまった。テレビの番組なんて、そんな程度のものだ。わざわざビデオで録画してまで見ようとは思わない。

×月×日 春を告げる、魚介や野菜が顔をそろえてきた。富山の白海老、高知、千葉の鰹、 福岡の筍(タケノコ)、福岡の眼張(メバル)などだ。佐賀のホワイト・アスパラガスも大きいのが生産されるようになった。鹿児島の空豆もいい。
 輸入品や、促成栽培、品種改良などで、作物の季節感は薄れているが、やはり「旬(しゅん)」という言葉を大切にしたい。「走り」や「名残(なごり)」という言葉もあるが、旬の食べ物が、一番美味しくありたいものだ。

×月×日 最近気に入っている和菓子は、JR目白駅前にある「志むら」の「九十九餅(つくももち)」だ。卵いりの求肥(ぎゆうひ)で、中に入った甘い寅豆がアクセントになっている。一個120円。
 創業は私と同じ昭和14年というところも、気に入っている。賞味期限は製造後3日間。

×月×日 友人の編集者、手賀ひろさんから、西村暢夫さんの『イタリア食文化こぼれ話』(発行・文流 発売・丸善出版)が贈られた。
 西村さんには、お目に掛かったことはないが、イタリア食文化の日本普及に長年、尽くした人だ。最近のイタリア食ブームでイタリアへ修業に出る若い人が増えているが、西村さんの世話になった人は多い。
 読んでいると、イタリア料理が食べたくなるような話題が詰まっている。
 イタリアにもカラスミ(唐墨)が有り、日本と同じボラの卵巣が主流だ。しかしマグロやメルルーサのカラスミもあるという。私は、マグロは食べたことがあるが、メルルーサは、出会ったことがない。スズキ(鱸)のカラスミもあるとのことだが、西村さんも食べたことがないそうだ。
 昔は、天日干しもあったのだろうが、燻製にしたとある。なるほど。今年の冬は、一度トライしてみよう。恐らく懇意の鮨屋に作ってもらうことになるだろうけれども。

×月×日 村上春樹さんの新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)で書店は大騒ぎだ。本屋大賞もどこかへすっとんでしまった。書店にしてみれば、どこの出版社の品でも、利益は一緒だ。初めて文藝春秋社から出るのも話題の一つだが、一般の読者はどこから出版されようと、あまり関係ないだろう。
 ちなみに、文藝春秋の寄稿家名簿である、「文藝手帖」に、村上春樹さんの連絡先が載っていない。来年は載るのかな? といっても『文藝年鑑』にも連絡先は記されていない。

×月×日 シンガポールのラッフルズホテルの名物カクテルは、シンガポール・スリングだ。ジンベースで、デンマーク産のチェリーブランディーを加え、ソーダ(タンサン)で割る。ロングドリンク(時間を掛けて飲む)カクテルで、ダークレッドの色が綺麗だ。
 チェリーブランディーは、コペンハーゲンのピーターヒーリング社の製品が有名だった。しかし、フィンランドのメーカーに買収され、ハンガリー産のチェリーを使うようになった、とかで評判を落としてしまった。
 そこで、昔ながらの製法でカムバックしたいと言うので、デンマークからワインコンサルタントのアンヌ夫人が来日。売り込みに来た。広尾の「ビストロ アンクゥー」で会食。
 デンマークのサクランボは、小さな粒でかなり酸味が強い。チェリーワインと言っているが、25度もあるので、リキュール感覚で居酒屋に置けば若い女性に好まれるかもしれない。となると、値段次第だが、500ミリリットル2,000円を超えると、なかなか厳しい。

×月×日 予想通り、巨人が強い。オープン戦から調子が出ない中日に元気が無い。これでは、早くも興味が失せてしまう。パ・リーグは、混戦状態というか、団子状態で、どこが抜け出せるか。

×月×日 三田の慶應義塾大学図書館で、「日本の食文化 — 魚菜文庫を中心に」を観る。料理人だった田村魚菜氏は、自由が丘に「魚菜学園」を開き、結婚前の女性が「料理修業」に通った。テレビでも活躍し、料理タレントの草分けともいうべき人だ。戦争中は、東急東横線の「青山師範(現学芸大学)」駅の近くで、食堂を経営していた。だいたい、私鉄沿線の各駅には、ひとつくらい、この種の大衆食堂が有り、戦時中は「外食券食堂」といわれた。
 代々、宮中の御厨子所預(みずしどころあずかり)を務め、天皇に御膳を進めてきた高橋家が、明治になり職を旧幕府料理方頭取(町方)の石井治兵衛に譲った。その際に移管された料理関係の古文書や古典籍と石井家の所蔵資料を石井泰次郎氏が整理し、「石泰文庫」と呼ばれてきた。現存する最古の料理書の一つ、『厨事類記』など、貴重な資料も含まれる。
 これらは、田村魚彩の手に渡り、1979年に慶應義塾大学に寄贈された。1811(文化8)年の「帰国御餐応 鮮魚青物乾物諸色員数値段書」や明治時代にジョルジュ・ビゴーが描いた「西洋料理店」の様子など、興味深い資料があった。(13・4・17)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。