第51回 不愉快な積水ハウスのCM、銀座「ル ボーズ」のフレンチ、「さとり世代」とは、何故かもてはやされる「投入」という言葉

×月×日 どうにもこうにも、積水ハウスのテレビコマーシャルが不愉快だ。小学生の男の子のストーリーになっている。
 ①教室で、女性の先生から算数のテストを返してもらっている。「頑張りましたね」と言われている子の後で、主人公の彼は、「少し集中していないのではないの」とバツが付いた答案を受け取る。
 ②サッカーの試合風景。ボールをキープしていると、仲間から、「回せ」という言葉が届く。その言葉に気を取られた瞬間にボールを相手に取られてしまう。声を掛けた子から、「なんで、打たないんだよ」と、詰(なじ)られる。
 ③帰り道に、同級生の女の子から、「サッカーの試合は勝った?」と尋ねられる。「うん、勝ったよ」と元気に答えるが、「○○君は?」と、彼女からは、友達の名前が出た。
 ④公園で、独り落ち込んでいるが、思い直したように、明るい顔で家路を急ぐ。

 落ち着きのある場所が、自宅にあるという事を言いたいのだろう。何を訴えたいのかは、分からないでもないが、暗い。実に暗い。救いようがないくらいに暗い。なにもそこまで、小学生の子供を落ち込ませなくてもいいではないか。これは、もうイジメに近い。
 彼が安穏を求めるのは家庭だろう。家族が彼を慰撫するのだ。家の建物ではない。考え過ぎで、理が勝っている。
 もうひとつ気に障るコマーシャルは、東京ガスの、母娘で料理を作る情景だ。それぞれの独白のナレーションが入るが、娘の「ママはしたたかでもある」とか「ママは意外にパパが好きみたい」というこましゃくれた科白(せりふ)はいったいなんなんだ。
 小さな娘から、「したたか」と言われるママもママだが、当のママも「娘は意外に大物かもしれない」と言うのだから、これはもうドラマでもギャグでもない。
 コマーシャルは、明るくなくてはいけない。最近のコマーシャルは暗すぎる。莫大な経費を掛けて、自社の企業イメージを損ねているのだから、救いようがない。CM制作者の「一人よがり」なのだ。

×月×日 間もなく開店一周年を迎える銀座の「ル ボーズ」でフランス料理。田舎風パテ、フロマージュ・ド・テッド(アルザス風煮こごり)、桜鱒のマリネ、フランス産アスパラガス(オランディーズソース)を前菜に、仔羊のハンバーグ風、ラパン、メヌケなどを3人で。
 ワインはカオール地方の自然派ワイン。ビオとは思えないほど、洗練されていた。オーナーの青木健晃(たけあき)さんは、京橋の「ドンピエール」で修業した。

×月×日 朝日新聞が、懸命に報道しているのが、「さとり世代」ということば。最近の10代の若者には、こんな特徴があるのだという。
①自動車やブランド品、海外旅行に興味がない。
②お金を稼ぐ意欲が低い。
③地元志向が強い。
④恋愛に淡泊。
⑤過程よりも結果を重視する。
⑥主な情報源をネットに頼っている。
⑦読書好きで、物知り。
 要するに、人を蹴落としてでも、出世するようながむしゃらなタイプではない。上昇志向、チャレンジ精神やハングリー精神とは無縁だ。
 一流大学を卒業して、一流企業に就職するという一昔前の価値観が大きく崩れたのだ。日本長期信用銀行や日本興業銀行、日本航空、ダイエーなどかつての人気企業があえなく崩壊するという社会情勢の影響もあろう。
 仮に一流企業に入社しても、先行き不透明という「不安」が付いて回る。悲観的に物事を考えすぎるのかもしれない。塾に通えば、偏差値と模擬試験で進学先が分かってしまう。
 さらに、大きな理由は、日本が戦争に巻き込まれる可能性が少なく、食糧も枯渇する危険性は極めて少ない、という事情がある。徴兵制もないから、戦地で死ぬこともなく、餓死の恐れもない。さしあたっては、「放射能」の汚染くらいしか、危機感が浮かばない。
「優秀な人はそれなりに」、「優秀でない人もそれなりに」という「それなり人生」を望んでいるのだろう。

×月×日 最近の料理番組を観ていると、やたらに「投入」という言葉を連発している。だいぶ以前に「料理に完成という言葉はそぐわない」と指摘したことがあった。
「そぐわない」とまでは言わないが、なぜ、「投入」なのだろう。
「ここまで煮込んだら、醤油と砂糖を投入します」という。ただ「入れます」と言えば良いではないか。
 単に動作、行動を単純に説明するのではなく、動作を起こす人の主体性、強い意志を表したいのだろう。それにしても、なにかしつこさが残る。料理なんてものは、もっと単純に考えれば、考えるほどいい。
 日本人は、やはり「漢語」が好きな国民性を持っているらしい。(13・5・15)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。