第54回 釣り鯒(鯒)のムニャイア、ビストロ・コンフル、投入、鮨処小倉、尾根と屋根

×月×日 遅ればせながら、3月の台湾旅行の反省会を緑が丘のイタリア料理「コルニーチェ」で。
 野菜と魚介で京大輔シェフにメニューを組んでもらった。
・アミューズは牛蒡のスープ(カレー風味)
・桜鱒のマリネとウイキョウ、甘夏蜜柑のサラダ
・ホワイトアスパラガスのカルボナーラ風
・マダコと筍、フルーツトマトのトンナレリ(自家製の太目のパスタ)
・白鱚(しろぎす)と空豆のリゾット
・釣り鯒(こち)とアンディーブのムニャイア(フランス語では「ムニエル」。魚に粉を付けてフライパンで焼いたもの)
・ひとくちソルベ
・ドルチェとジェラート
 シェフが金沢八景まで行って、大型の鯒を釣って来てくれた。
 ワインは、マムのブラン・ド・ブランから、スイスのサンサフォラン09、デンマークの今を時めくコペンハーゲンの有名レストラン「NOMA(ノマ)」のシェフ、レネ氏らが所有しているデンマーク産の白ワイン。残念ながら、品種が良くわからなかった。
 赤はバルベーラ・ダスティ バルラの06と07を飲み比べ。デザートはニュージーランドの東海岸セラクス社のアイスワイン06.品種はゲヴュルツトラミネールとリースリング。イタリアを中心に国際的な顔ぶれだった。

×月×日 11月に刊行予定の新著の書名やセールスプロモーションの方針について、駒澤大学近くの、「ビストロ・コンフル」でかつての同僚の意見を拝聴した。ランチタイムはヤングママさんたちの格好の場になっている。
 昔、井戸端、今はビストロか。

×月×日 最近気になる言葉は、「投入」の多用だ。料理番組に、「ここで、お醤油と砂糖を投入します」などと使う。料理番組に限らず、ニュース番組などでも、耳にする。書き言葉よりも話し言葉に多い。
 「入れる」を強調するためなのだろう。スポーツ中継の、「早くもここで、代打の切り札、○△を投入します」とか、「左サイドに□×を投入します」から来たのか。本来は「投入」よりは、「起用」のほうが正しい使い方かもしれない。
 醤油や砂糖を投げ入れるのか、と突っ込みたくなる。
 「公的資金の投入が、待たれます」のように、資金、人員、精力を注ぎ込むという意味もある。「危機的状況」や「選ばれた機会」を必要とするニュアンスがあるのかもしれない。

×月×日 学芸大学の鮨処「小倉」へ。開店早々一人で入る。帰りしなに6人家族が入って来た。さあ、大変。
 寿司屋で、6人が銘々に注文したら、よほど経験を積んだ腕利き職人でも捌きが難しい。職人の技術もさることながら、「勘」と一種の「押しの強さ」も必要だ。お客の方でも、食べ慣れていて、上手に注文してくれればいいが、ちょっと耳に入った限りでは、あまり慣れていない様子。しかも外人が一人いる。
 以前に書いたかもしれないし、拙著『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)を、ぜひ読んでもらいたいのだが、すし屋のカウンターに座るなら、4人が限度だ。周囲に座るお客への迷惑を考えなくてはいけない。人数が多い時や、子供が居る時は、店と相談して「貸切り」にすればいいだけのことなのに。
 修羅場を目の当たりにするのは御免なので、草々に退散する。

×月×日 滋賀県赤坂山で、男女二人の小学生が遭難し、翌日無事に保護された。
 或るラジオ局が、「ヤネを捜索中」と放送していた。「オネ(尾根)」の間違いだが、アナウンサーが原稿を読み間違えたのか、原稿を書いた記者がまちがえたのかもしれない。よほどの悪筆か、あるいは変換ミスか。
 ネット上で、「カップル遭難」という見出しがあったが、それは不謹慎というもの。小学校の6年生にカップルはないだろう。児童の災難をからかってはいけない。(13・6・5)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。