第55回 DJポリス、コハダの新子、居酒屋の子供たち、ワシントンのラーメン屋

×月×日 ザックジャパンがブラジルで来年開催されるサッカーのワールドカップの出場権を決めた。試合終了後、渋谷のスクランブル交差点を整理する警官の機転の利いたアナウンスが話題になっている。中継の動画を見ていたが、一生懸命な仕事ぶりはよく分かった。名付けて、DJポリス。警視総監賞が授与されるらしい。いい話だ。
 警官の質が向上したということだろうが、ただサッカーの試合で引き分けて、出場権を獲得しただけのこと。かえって勝ったよりも、敗戦を免れただけ盛り上がったのかもしれない。1‐0で勝っていたら、もう少し静かに解散したかもしれない。  
 それにしても、テレビの視聴率が36.8%(関東地方)を超えたのだから、すごい。一時的には46%を超えた時間帯も有った。お蔭で、夜の飲食店は閑古鳥が鳴いていた。

×月×日 梅雨入りしたものの、雨がさっぱり降らない。梅雨入りの決定が「早すぎたのではないか」という声もあるらしい。
 一年ぶりに新子安の鮨屋「八座ェ門」へ。異常気象の影響からか、5月30日に、コハダの幼魚の新子(シンコ)が市場に現れたそうだ。キロ50,000円だったのが、週が明けると、100,000円になっていた。
 まさに、グッピーかメダカ程度。静岡の浜名湖からきたものらしいが、地元の鮨屋での写真を見ると、シンコの処理が出鱈目。扱い方が全く分かっていない。
 見得と情報に高いお金を払っているようなもの。生産者も、出荷業者も、仲卸、すし屋、お客のすべてが、貴重な資源を守る方策を考えないといけない、ということで店主の磯山満さんと意見が一致した。
 せいぜい3枚付の大きさになるまで、我慢するとのこと。当然、値段も大幅に下がる。
 鰻のシラスの二の舞になることは、避けなければならぬ。穴子の稚魚の「ノレソレ」も同じこと。採取禁止に踏み切った漁港が増えている。いいことだ。

×月×日 ベビーカーの氾濫については、本欄でも触れたし、一種の社会問題にもなっている。
 ベビーカーブームの延長上として、捕えるのには異論があるかもしれないが、最近、居酒屋とか串揚げ屋など、主として大人が酒を飲む店に子供を連れてくる若い夫婦の姿をよく見かける。
 例えば、「ソース二度づけお断り」の関西風串揚げ屋の前で、並んで席を待っている家族がいる。テーブルはビールの業務用ケースの上にベニヤ板を置いただけの店だ。どう考えても、子供の行くような店ではない。
 私が小学生の頃は、焼肉屋なんて私鉄駅周辺に一軒あるかないかで、子供どころか普通の家庭でも、足を踏み入れるような雰囲気ではなかった。
 ヨーロッパでも特にフランスでは、レストランに子供を連れて行くという習慣はない。この場合の子供とは幼児ではなく、中高校生も含まれる。もう少し、つきつめて言うと、レストランは大人の「男と女」が楽しむ場所なのだ。
 もちろん、フランスにも「社用族」は存在し、レストランで、「政治的交渉」や「情報交換」、「商談」が行われることもあるが、それでも「女性」の存在を重視する。
 日本の居酒屋でも、女性の「一人飲み」が増えて来た。「一人居酒屋」、「一人すし」。「一人焼肉」という言葉もある。もちろん、男女雇用機会均等法による、女性の社会進出の潮流と無縁ではない。

×月×日 日本食は世界中から注目されている、という話しはよく聞くが、日本にいると、その実態はなかなか理解できない。しかし、東京新聞(6月7日夕刊)の「世界の街 特派員リポート」を読むと、ワシントンにも、特派員が満足できるラーメン店が登場したそうだ。
 味も、味噌、醤油、塩と三種そろって、「ラーメンライス」も食べられる。食事に時間を掛けるアメリカ人の習性から、ラーメン一杯を食べる時間が長くなるのを、特派員氏は心配している。麺が延びてしまうのではないか、と気遣いからヤキモキしている様子が伺える。
 さらに残ったラーメンを容器に入れて、持ち帰るお客もいるそうだ。「ドギィバッグ」(自宅の犬用に……という意味の容器)にラーメンというのは、ちょっと日本人の発想にはない。
 イタリア料理のパスタ(スパゲッティなど)は、定量が80グラムだ。日本人には、普通のラーメンの3分の1か、半分くらいの量と感じるだろう。パスタの後にメイン料理が用意されているという事情もあるが、要は「延びない」うちに早く食べ終えて欲しい、ということだ。
 中国料理の麺は、料理の後の「締め」として出てくるが、日本のラーメンは、一杯でお腹が一杯になるように工夫された特別な「料理」だ。だからラーメンは、「中国料理」ではなく、「日本料理」なのだ。やはり食文化が国境を越えるには、いろいろな障壁があるものだ。
「週刊朝日」の最新号では、料理研究家の行正り香さんがミュンヘン空港にラーメン屋さんとお寿司屋さんがあるのに、驚いたと書いている。お寿司屋さんは、かなり以前から、オランダのスキポール空港にあった。
 寿司屋さんからあまり匂いは出ないが、ラーメン屋さんの匂いはかなり強烈ではないかと心配してしまう。余計なことではあるけれども。(13・6・12)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。