第69回 楽天優勝、「減肥」とはダイエット、お節の予約、切手を貼る位置、朝7時の落語、久下貴史

×月×日 パシフィック・リーグは創設9年目の東北楽天ゴールデンイーグルスが優勝した。9月26日の優勝を決めた埼玉西武ライオンズとの戦いは面白かった。
 優勝するためには、西武に勝つだけではなく、千葉ロッテマリーンズが札幌で負けるという条件があった。
 しかも、前半はロッテがリードする展開だった。最終回のいわゆる「胴上げ投手」は田中将大に任せると星野仙一監督が言い出したから、演出の算段が難しくなった。
 所沢(NHKBS)と札幌のチャンネル(GAORA)を切り替えながら、観ていたが、ロッテの敗戦と田中の登板は、微妙なタイミングで、ロッテの9回表の攻撃は、一球で同点になる場面だった。田中の交代を審判に告げた時点では、まだロッテの攻撃が終わっていなかったはずだ。またNHKの速報も遅かった。
 ゆっくりとブルペンへ歩いて行くことで、球場の雰囲気を変えたかった、というのだから、田中には余裕があった。大したものだ。しかし先頭打者にヒットを打たれ、田中も一球で敗戦の危機があった。ということは、ちょっとでも間違えれば、連続勝利記録も途絶えるところだった。
 一死二、三塁から栗山巧、浅村栄斗を連続三振に打ち取った直球の威力は、球史に残る見事な投球だった。
 果たして、田中投手は来年も日本のマウンドに立つのだろうか。どうも、アメリカへ行くようだ。この日の二者連続三振は、田中の価格をさらに釣り上げたような気がする。

×月×日 中国語で、ダイエットというのを「減肥」というそうだ。作家の楊逸(ヤン・イー)が、東京新聞のコラムに書いていた。読み方は分からないが、言葉の意味はよく分かる。漢字の有難さだ。こういう時、日本人がひらがなとカタカナを発明したのは、実に素晴らしい偉業だ。先人の知恵に感謝の気持ちが、ふつふつと湧いてくる。

×月×日 デパートで、とうとう正月の「お節」の予約が始まった。先週には、年賀状の予約の「先走り」を憂いたところだ。
 この風潮は、やはりどこかおかしい。もっと、どっしり落ち着いて、暮らせないものか。

×月×日 ある有名デザイナーは、切手を封書の中央部に斜めに貼って来ることがある。「デザイン効果」を考えてのことだろう。デザイナーとしての自己主張であり、センスを誇示したいのか。
 しかし、これは「約束違反」だ。封書は大きさの制限もあり、縦型なら左上、横型なら右上と位置が定められている。郵便番号を機械で読み取り、送り先を分類し、消印を押す。
 切手が封筒の真ん中に貼ってあったら、人力で探して手動でスタンプを押さなければならない。80円では済まなくなる。
 長年にわたって、定着、継続してきた一種の「文化」を機械化して、料金などの利便性を計ってきた。7桁(けた)になった郵便番号もようやく生活になじんできた。今では宅配便の業者も流用している。
 それを、一介のデザイナーの「おふざけ」で勝手にいじくり回されては、たまらない。「自己主張」ではなく、「自己満足」でしかない。
 前回に述べたポップアートは、「スクエアー(四角四面)」を嫌う文化でもある。若者は常に、決まりきった、お仕着せに反発する。きらきらネームも、一連のネット上の「悪ふざけ」もポップアートの精神と無縁ではない。
 しかし、70を超えた老人が、「スクエアー」に反発すると、痛々しく見えるだけである。

×月×日 土曜日の朝7時から、TBSチャンネル1の落語特集で、古今亭志ん輔の「黄金餅」。焼き場でお骨をかき分け、死人が呑み込んだ小粒の金を取り出すという、落語の中でも、最も怪奇でシュールな噺だ。
 番組を作る方も作る方だが、それを朝から楽しむ方も楽しむ方だ。

×月×日 ニューヨークで活躍している久下貴史(くげ・たかし)さんのサイン会が自由が丘の「アートファーム」で開かれたので、出かける。マンハッタナーズ専門店と銘打って、オリジナルのバッグや文房具などを販売している。二か月ほどかけて日本中を回るのだが、今夏の猛暑で銀座へは出そびれた。
 週刊朝日の「山藤章二似顔絵塾」出身という異色のアーティストで、風間完画伯の数少ない弟子。猫の絵を得意としている。

×月×日 中野の「ふく田」で、ワイン仲間8人と「河豚と松茸のしゃぶしゃぶ」。ペリエ・ジュエ・ブラゾン、ヴーヴ・クリコのロゼなど4本のシャンパーニュと、ピュイリー・モンラッシェ2004、グリオット・シャンベルタン1998など8本。足らなくて最後は「ヒレ酒」を頼んだ者もいた。
 店の名物になった感のある「松茸チャーハン」が好評。自慢するわけではないが、これは私のアイディア・メニュー。

×月×日 注目の堺市市長選挙は、地域政党「大坂維新の会」の「大阪都構想」にノーが突き付けられた。
 橋下徹共同代表の求心力が低下することは避けられない。妥当な結果だろう。(13・10・2)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。