第78回 桂枝雀、新聞の横組み、ゴルフの賞金女王、田中将大

×月×日 BS朝日の「君は桂枝雀を知っているか!? 天才の苦悩」を見る。芸術祭参加作品という前触れに期待したが、構成が分かり難い。
 子息が父親を語ったが、「落語を突き詰めて考え過ぎ、と世間ではいわれているが、父はそれが好きだったのです」というのは、潔い。
また「がんを患った人に、なぜがんになったのとは、訊かないでしょう。父も病気になったのです」とも「証言」していた。
 したり顔に言えば、「落語なんて、命を掛けてまで極めるものか」という声がある一方で、とことん命を懸けて自分なりの「落語」を極めようとしたのだろう。
 知人のテレビのディレクターに送った手紙に、自分で「うつ病」と認めていた。
「うつ」の人は自分が「うつ」であるという明確な自覚を持つものらしい。
 一見矛盾しているようだが、「うつ」は「躁」と表裏一体(混在する場合もある)だから、「躁」状態のときに、「自己暴露」的に作用して、自分は「うつ」であると「天才的資質」を誇示することも考えられる。天与の才に恵まれながら、努力を怠らない、という真面目な資性がバランスを欠いたのだろうか。
 友人の精神科医、河合眞さんによれば、「うつ」の心性の中には、「自己破壊衝動」が存在し、高座から降りた時の「正体」(否定的な意味で)を開示するという傾向があったのかもしれない、とのこと。
 弟弟子の桂ざこばが、「お客さんが爆笑しているのに、自分では納得しない。あれだけ喜んで楽しはんでいさかいに、よろしおますやろ、といくら言っても、耳を貸そうとしなかった」という話も、面白い。残念なことにこんな「いい話」が、稚拙な構成によって生かされなかった。

×月×日 以前から私が主張しているように、朝日新聞の横組みが15字詰めになって、読みやすくなった。もう2文字減らして13字詰めでもいい。毎日新聞は、依然17字詰めのまま。後は、改行を増やすことだろう。
 縦組みの場合は12字詰め(以前は15字)だ。縦組みと横組みで、原稿を書き分けるのがプロの仕事だ。
 原稿を依頼されると、私は、必ず何字詰めで印刷されるのか、訊くことにしているが、即答できない編集者が多い。

×月×日 女子プロゴルフの賞金王が確定した。僅差(きんさ)で、森田理香子が逃げ切った。こんなに面白い、賞金レースは過去にもあまり例がない。またゴルフ以外のプロスポーツで、個人の獲得賞金が騒がれることもない。
 最終戦のメジャー・トーナメントというのに、優勝争いそこのけで、賞金女王がクローズアップされてしまった。280万円差でスタートし、横峯さくらが130万円にまで差を詰めたのだから、競馬で言えば「鼻の差」くらいか。
 試合前のNHKのニュースでは、「わずかの差」とだけ言って、金額の数字は放送しなかった。終わってからのニュースでは、賞金総額には触れず、130万円の「差」だけ述べていた。まあ、「たしなみ」というか、NHKの矜持だろう。
 これが民放で、戸張捷とかいう人が解説していたら、ノートパソコンをたたきながら、「このパットは何百万円に相当する一打です」と得意げにしゃべるところだ。この人が賞金のことを話すと、なぜか品位に欠けるところがある。彼の「人間味」と言ってしまえば、それまでだが。
 男子のシード権争いで、明暗を分けた差は、24,463円だった。
 なぜゴルフだけが、獲得賞金を騒ぐのか。それは、スポーツでありながら、ゲーム(遊戯)の要素が強いからだろう。ベット(賭け)に向いているスポーツだ。
多少技術の差があっても、ハンディキャップを付けることで、面白く楽しめる。マージャンの遊戯性に似ているが、4人の中で、むしり取るだけのマージャンと違って、ゴルフは自己の記録(上達)に挑戦するという目的が明確だ。そこにゴルフの魅力がある。巧拙を問わず、人気が続いている理由だろう。
 だから、余計に獲得賞金が重要視されるともいえる。

×月×日 今年、最も輝いたスターは、楽天東北イーグルスの田中将大投手といって、誰も異議を挟まないだろう。いろいろな方面から表彰を受けて露出度が高まっているが、顔が良くなった。甲子園に出た頃は、「ハンカチ王子」のニックネームで人気のあった日本ハムの斎藤祐樹投手と比較されたが、今やすっかり立場が逆転した。
 大晦日の「NHK紅白歌合戦」の審査員にも選ばれるだろう。もし選ばれなかったら、NHKの鼎(かなえ)の軽重が問われるというものだ。(13・12・4)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。