第80回 峯島正行さん米寿の会、柳家小三治一門会、新子安の「八左ェ門」、東中野の「サル・キッチン」、和食の文化遺産、テレビドラマ、「井上ひさし」

×月×日 昭和40年代以降の漫画界をけん引した「週刊漫画サンンデー」や、日本初の「週刊小説誌」となる「週刊小説」(いずれも実業之日本社)の創刊編集長を歴任した峯島正行さんの「米寿を祝う会」(東商ホール)に出席。晩年は、有楽出版の社長も務め、優れた著作も多い。
 編集者は川野黎子(新潮)、佐藤吉之輔(角川)、岡本修一(青蛙房)などの各氏。作家は勝目梓、眉村卓、坂崎重盛氏など。漫画家はクミタリュウ、ウノ・カマキリ、ヒサ・クニヒコ氏ら。
 編集者の末路について、元新潮社の川野黎子さんが締めの挨拶をきれいにまとめた。
 米寿を過ぎて、なおウエブで「手塚治虫論」を連載中とはすごい。ますますの健筆を念じる。

×月×日 柳家小三治一門会。西武池袋線練馬駅前の「練馬文化センター大ホール」。地下鉄副都心線経由で東急東横線と西武線が乗り入れたお蔭で、都立大学駅から40分程度で着いた。都心から離れているので、開演は7時半。
 柳家ろべえの「初天神」、柳家喜多八の「盃の殿様」、膝がわりの色物は水戸大神楽(だいかぐら)曲芸の柳貴家小雪(やなぎや・こゆき)。
 お目当ての柳家小三治は、寒さも厳しくなったので、「うどんや」。 小三治のまくらは、フランク永井の「公園の手品師」。自慢ののどを披露してから、フランク永井との交誼を話した。「銀杏は手品師、老いたピエロ」という歌詞(宮川哲夫作詞)が、初冬の情景に重なった。初冬の時期には、定番のまくららしい。

×月×日 朝日新聞文化部の増田愛子記者から池波正太郎についての取材を受ける。若いのに、よく池波作品を読み込んでいるのに驚嘆。

×月×日 新子安のすし屋「八左ェ門」。平目の身が薄く、旨みがないとのことで、長崎のクエとアマダイの昆布締めが出た。
 クエの身は肌理(きめ)が粗いのと、アマダイは身が軟らかいので、昆布を使って締めたのだろう。アマダイは、京都で刺身として出す時も、塩で締める。
 すしダネとしては、本道を外れているかもしれないが、おいしければ文句を言うことではない。理屈や定則を食べるわけではないのだから。

×月×日 東中野の「サル・キッチン」。エゾ鮑(あわび)のテリーヌを肝のソースで。鮑の旬は貝類には珍しく夏で、この時期は小ぶりのエゾ鮑が主流。「八左ェ門」もエゾ鮑だった。メインは北海道トムラウシ産のエゾ鹿のロティを選ぶ。
 この店は表から見ると、ひなびたラーメン屋のたたずまいだが、出て来る料理は決して侮れない。内藤泰治シェフの全力投球は、いつも食べ終わってから爽快感に浸れる。
 不思議なことに、「八左ェ門」の磯山満さんも、この内藤さんの料理にほれ込んでいる。ジャンルは違っても、料理人同士、触れ合うものがあるのに違いない。

×月×日 12月の第2金曜日。忘年会のピーク。電車はすごい混雑。夜の10時を過ぎてから、JRの横浜駅と、鎌倉駅で、それぞれ男性がホームから転落して、死亡した。
 11時35分ごろの、鎌倉駅で起きた事故は自殺と事故の両面から調べているとのこと。
 まあ、あまり深夜の自殺は考えられない。スマホに夢中だったかもしれないが、「飲み過ぎ」による転落事故だろう。
 お互い、気を付けましょう、ご同輩。

×月×日 NHKスペシャル「和食 千年の味のミステリー」を観る。
 日本だけにしか存在しない、「アスペルギルス・オリゼ」(日本こうじかび)の物語。京都の醤油屋、種こうじ屋、料理屋などの四季の移ろいを丁寧に追った。確かに「世界最古のバイオビジネス」と言えるだろう。
 和食の世界文化遺産指定祝賀番組。この好機に便乗しようと、虎視眈々(こしたんたん)としている大メーカーや一部料理人たちの影が浮かんでくる。 

×月×日 NHKのBSプレミアム・ドラマ「劇作家・井上ひさし誕生の物語~名作が生まれた秘密・執筆を支えた家族」にチャンネルを回す。
 前夫人の西舘好子さんや三女の石川亜矢さんの本を基にしているのだろう。保存されている実写の録画なども駆使して、ドラマともドキュメンタリーともいえない不思議な映像番組となった。
 創作の秘密の雰囲気はわかるが、活字の世界に入り込む最初の段階から関わってきた当事者から見ると、まだまだ「序の口」だ。
 担当編集者の井上ひさしに対する「愛憎」は、こんな生易しいものではない。(13・12・18)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。