第90回 ワインバー「遠藤利三郎商店」、焼き鳥「おか田」(自由が丘)、『ほろ酔い文学事典』(左右社)、亀戸天神、『山藤章二・自分史ときどき昭和史』、「辞書いいね!」、「アマゾン」でベストセラー

×月×日 渋谷のワインバー、「神泉 遠藤利三郎商店」に、かつて私が主宰していた塾の塾生たちが集まる。墨田区押上の酒屋、遠藤利三郎商店は、神泉の山手通り沿いで、ワインセラーを完備したワイン愛好家を対象にしたワインアパートメントを開設した。
 シャンパーニュに始まり、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン、コート・デュ・ローヌ、マコンの白と続き、赤はオレゴンのピノ・ノアール。最後のデザートには、シェリーのペデロ・ヒメネスで締めた。
 ワイン・ジャーナリストの第一人者、柳忠之さんのセレクションだから安心して任せられる。多くはアラフィーだが、それぞれの分野で精いっぱい生きている。

×月×日 自由が丘の焼き鳥「おか田」で、『NPOの経営は工夫次第』(左右社)の著者、川口善行さんとテニス仲間のメンタルクリニックK院長と会食。川口さんは、4か月ほどポルトガルへ行くとのこと。ポルトガル語の習得に努めるのだとか。かつて損保会社のサンパウロ支店長を勤めたので、ポルトガル語には、多少のなじみがある。
 K院長は、テニスでアキレス腱断裂の一歩手前状態。ラケットをしばらく握れない鬱憤からか、かなり酩酊して川口さんの著書と「ポルトガル志向」に、盛んに絡んでいた。「今は、ポルトガルよりもアジアだ」と言いたいらしいけど、他人の遊び先に、文句をつけてもなあ……。 

×月×日 3月13日発売の『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)がようやく校了になった。『食彩の文学事典』(講談社)と重なり、新年早々からゲラの校訂に追われていたのが、ようやく一段落した。 

×月×日 加えて、気がかりだった孫の中学受験もなんとか格好が付いたので、亀戸天神にお礼参り。丁度、梅まつりの開催中で、白加賀、思いのまま、青軸冬至、八重唐梅、東雲などが、芳香とともに花開いていた。
 久しぶりに、亀戸駅近くの「亀戸餃子」。座ると2皿出て来る。同時に2皿ではなく、時間を置いて出て来るところが良い。簡単なようで、店員の気配りがないと、うまく運ばない。追加は1皿(250円)単位となる。最近はなかなかお目に掛かれなくなったビールの大ビンを飲む。
 お土産は、舟橋屋のくず餅。くずと言っても、小麦粉のでんぷんを150日も水に曝(さら)して熟成、乳酸発酵させる。葛粉(くずこ)とは、関係ない。かつて安房の船橋一帯は、小麦粉の産地だった。 

×月×日 「昭和の戯作者」と言われるイラストレーター、山藤章二さんの『山藤章二・自分史ときどき昭和史』(岩波書店)を読了。私より3学年上。住まいも同じ目黒区だった。個人的に親戚を頼って、疎開したところも似ている。生後すぐに父親が病死、母親の頑張りで育てられた。
 武蔵野美術大学時代に日宣美に入賞、懸賞の応募に懸命だった。まだ、デザインというよりは、図案と言ったほうが分かりが早い時代だ。ナショナル宣伝研究所に入社して、将来は幹部社員の座が約束されていたが、フリーの道を選ぶ。
 安定した生活から、あえて自分一人の力で勝負するために、会社を辞めるのは大変な決断だったろう。プロデューサー的役割を果たした米子夫人の功績と苦労がページから伝わってくる。
「週刊朝日」在籍時代に「表紙」や「ブラックアングル」などを担当したことが懐かしく思い浮かんでくる。軽快な文章と、ところどころに挟まれた落語が絶妙な、「余談」になっている。画才と文才の二刀を使いこなせるところは、まさに偉才。

×月×日 朝日新聞の「be」面のコラム「辞書いいね!」で、(鉄)記者が、『食彩の文学事典』(講談社)を取り上げてくれた。「日刊ゲンダイ」や「夕刊フジ」で取り上げられた影響も徐々にでてきたのだろう。お蔭で、アマゾンの在庫が一日で無くなった。
 アマゾンのカテゴリー「評論・文学研究」の「参考図書・書誌」部門で、「ベストセラー1位」のタグが付いた。まあ、マイナーな分野だが、今まで無縁だったので、気分はいい。 

×月×日 毎日新聞の書評で、(川)書評子が、やはり、『食彩の文学事典』を取り上げている。「日本文学の大きな特色は食の場面が多彩であることかもしれない」と結論付けていただいた。感謝。
≪お知らせ≫ 大雪のため中止となりました2月14日の『食彩の文学事典』(講談社)出版記念「トークショーとサイン会」は3月25日(火)に開催されます。
八重洲ブックセンター本店(東京駅八重洲口前)8階ギャラリーで、6時30分(開場6時)から。「日本文学の中の和食—作家は和食をこう書いてきた(対談「料理通信」君島佐和子編集長)」とサイン会が行われます。
 定員50名。申し込みは1階カウンターか電話(03-3281-8201)まで。
(14・3・5)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。