第95回 「和食」とは、何か? 柳家三三の「文七元結」、蛇崩川の桜、東工大の桜、上野千鶴子さんの「おひとりさまの最期」

×月×日 銀座の「いまむら」。主人の今村英太郎さんが、「白子豆腐」に挑戦していた。やはり、手間の掛かる仕事のようだ。
 京都の料亭「菊乃井」の村田吉弘さんらが、京都を中心に発達した懐石料理の将来に不安を覚えるのも理解できる。和食がユネスコの文化遺産に登録されたのも、最初は京都の料理人たちの発案だった。
 それにしても今や、「和食」、「和食」のオンパレードだが、いったい何を指して「和食」と言うのか。はっきり説明できる人がいるなら、お目に掛かりたい。

×月×日 横浜の野毛にある寄席「横浜にぎわい座」で柳家三三(さんざ)の独演会。二夜三か月興行の最終回。「粗忽の釘」と「文七元結(ぶんしちもつとい)」。前座は柳家市馬の総領弟子、柳家市楽の「四段目」。
 三三が育った小田原の市民と横浜市民との間には、同じ「神奈川県民」なのに微妙な「確執」が有るらしい。東京都民には、「関係のないこと」ではあるけれども。

×月×日 ここ10年くらいの間に、中目黒の蛇崩川(じゃくずれがわ)の桜がすごい人気スポットになった。川幅が狭く水面が深いので、両岸から枝がせり出し豪華な景色が生まれた。子供のころから60年以上も見続けている者にとって、花見客でごった返す現象は予想にもしなかった光景だ。中目黒駅付近から300メートルほど下って、駒沢通りをくぐった東京共済病院の前では、なんの魚かは分からないが、かなり大きい魚影も見える。2,3年前にはコウモリの姿も見えた。
 露店でプラスティック製のフリュート型シャンパングラスに入ったロゼのスパークリングワインが、一杯500円なり。かなり売れている。多くの人が、細長いシャンパングラスを片手にそぞろ歩き。花見酒も、年年歳歳その内容とスタイルは変わっていく。

×月×日 東急大井町線、緑が丘駅前のイタリアン「コルニーチェ」に8人が集まり、ランチとワイン。
 前菜は仔羊とピスタチオのテリーヌ、ルッコラ(セルバチカ=野生種)添え。パスタが2種。ヤリイカと筍、フルーツトマトのスパゲティ、ホワイトアスパラガスとパルミジャーノのリゾット。メインは長崎産の鰆(さわら)の香草パン粉焼き、春菊のドレッシング。デザートはマスカルポーネとプルーニャ(プラム)のムースとジェラート。いずれも春の香りを感じさせる皿ばかりだった。
 ワインは、スパークリングとロゼを中心に。ロヴェルタのカバ、ロデレール・エステート・カルテット、シャンパーニュはマムのロゼ。サンセール(アルフォンス・メロ2011)を挟んで、ロゼはバンドール(タンピエ2012)と、ジスクールの2012。
 赤はブルゴーニュのドメーヌ・ド・ラ・トゥール。デザートには、バルサック(2001)とモスカートのスプマンテ。
 東京工業大学構内の桜を観賞。 
 雷雨を避けて大岡山駅前の「キッチン&カフェ・ハヤシ」に飛び込む。ディスクールの赤を一本飲んで、コーヒー。

×月×日 朝日新聞出版から出ているPR誌「一冊の本」の新連載、上野千鶴子さんの「おひとりさまの最期」第1回を読む。日本人の「死に場所」についての考察だ。現在は病院で亡くなるのが約80%で、在宅が13%、施設が5%とのこと。年々施設での看取りが増えている。
 上野さんは、調査で施設を訪ねると、必ず「お看取りとご遺体の安置所について」尋ねるそうで、次のように書く。
<霊安室の場所や雰囲気でその施設の死生観がわかるような気がするからです>
「うちではやっておりません」と答える施設がある。危篤になったら、その都度119番へ通報して、救急車を要請するのだという。
 ほとんどの施設では、まさか「遺体安置所」について尋ねられるとは思ってもいなかったに違いない。これからは、病院以外の「在宅死」が増えて行く傾向にあると、上野さんは指摘する。
 誰もが、避けては通れない事柄だから、上野さんの指摘はタイムリーで鋭い。次号も読まなくては。(14・4・9)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。