第103回 無断で「ねつ造」寄稿を掲載、「いまむら」の味、伊原春樹元西武ライオンズ監督、セルビアの大洪水、渡辺淳一の俳句

×月×日 執筆した覚えもなく、インタビューを受けてもいないのに自分の名前の文章が雑誌に掲載されていたら、誰でもびっくりする。文藝家協会ニュースが、「とんでもない事件発生」と言うだけあって、一部の新聞でも報道された。
 男性向けの月刊ファッション誌「Free&Easy」(イースト・コミュニケーションズ発行)が、6月号で安西水丸さんの追悼特集を組み、赤瀬川原平さんに無断で赤瀬川さんの「追悼文」をでっち上げて掲載した。
 本人は入院中で、文章も「追悼」になっていないので知人が家族に連絡して、ねつ造が判明した。他にも南伸坊、角田光代も「被害」に遭っている。
 赤瀬川さんと以前に2度ほどインタビューしたライターが書いたという説明。角田さんの場合は、「週刊朝日」に寄稿した文章を「ですます調」に書き換えて、勝手に掲載してしまった。
 まったく信じられない話だ。ネットで見ると、一部の人には注目されている雑誌らしい。「アイビー」の特集を組んだり、安西水丸さんにかなり執着するところをみると、やはりマニア的な読者が付いているのだろう。
 近所の書店をのぞいてみても、無かったが、雑誌というよりは、なにかカタログの要素が強い、ように思える。
 文藝家協会ニュースの「主張」は鋭い。
<各社の雑誌編集部は、真剣に懸命に仕事しているのに、この件は、著作者のみならず、雑誌編集者たちを貶(おとし)める重大な事件です。>
 まったく同感だ。

×月×日 久しぶりに銀座の「いまむら」へ。お椀はアイナメの葛たたき。鱸(スズキ)の焼き物が初夏を感じさせる。蛸の柔らか煮など、丁寧な味は変わらない。

×月×日 西武ライオンズの伊原春樹監督がチームの不振の責任を取って休養した。実質的な解任である。アメリカのメジャーやヨーロッパのサッカーなら、即座に「解任」となるのだろうが、日本では、そこまでドライに割り切れない。「休養」というきわめて「日本的な」な「処遇」だ。
 かつて監督として優勝した経験もあるのに、選手とまったく信頼関係が築けなかったという報道があった。
 開幕戦で、東北楽天イーグルスに3連敗を喫したベンチでのある情景をテレビで見たとき、だいたいこの「処遇」は予想できた。第何戦かは忘れたが、早い回に得点を奪われ、ベンチに戻ってきた炭谷銀仁朗捕手に、伊原監督が何かを尋ねていた。声は聞こえないが、表情から推測するに叱責に近い感じだった。野球の場合、こういう対話を「説教」という。
 失点するや否や、選手がベンチで監督から「説教」されたら、それぞれを担当するコーチの立場がない。監督だからといって、すべての分野に口を出されたら、コーチは困るし、選手も迷うだろう。管理職としての失敗は、そのあたりに原因があるような気がする。
 負けたら選手の責任、勝ったら監督の手柄、というのでは、コーチや選手たちのやる気をそぐだけだ。
 また、茶髪や長髪、ユニホームのズボンをたくし上げないのを禁止したことに、反発があったという。これは、難しい。明確な基準がないからだ。相手に不快な念を与えない範囲と言っても、判断は人によってそれぞれ異なる。
 巨人にFAで入りたいからと言って、長い髭を剃り落としたり、モヒカン刈りをスクエアーな髪型に整えて、志望をかなえた選手たちがいた。身につける衣服やヘアースタイルは、その人のセンスであり、考え方だから、他人がとやかく言う筋合いはないかもしれないが、人間的には、どうも好きになれない。
 蓬髪長髯(ほうはつちょうぜん)、モヒカンは、別に好みではないけれども、いったん決めた自分のスタイルは最後まで通すのが「筋」というものではあるまいか。

×月×日 長い雨が続いている。農耕民族にとっては大切な雨だが、度を超すと憎らしくなってくる。人間というのは、勝手で気ままなものだ。
 それにしても、セルビア史上最悪の洪水被害は深刻だ。東日本大震災の時には、いち早く、多額な見舞金を贈ってくれた。そのお礼の意味もあって、援助の手を差し伸べようと活動している人たちがいる。なんとか協力できる方策を考えて実行するつもりだ。

×月×日 8日付の朝日新聞朝刊「歌壇俳壇」面に、「うたをよむ 渡辺淳一の俳句」を寄稿。たまたま隣の読書面「ニュースの本棚」でも、林真理子が渡辺淳一作品を取り上げていた。(14・6・10)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。