第104回 映画「みつばちの大地」、変な人の変な本、シネマ落語「古今亭志ん朝の独演会」、ワインだけでないソムリエ、W杯初戦敗れる、松山英樹のコメント

×月×日 神保町の岩波ホールで上映中の映画「みつばちの大地」を観る。アインシュタインは、「もし地球上からみつばちが居なくなったら、4年後に人類は滅亡する」と言ったそうだ。
 スイス、ドイツ、アメリカ、中国、オーストラリアなど、ミツバチの世界を追った壮大なドキュメンタリー。
 私も半世紀前に、鹿児島の転地養蜂家を一年かけて追跡したことがある。レンゲ、ナノハナ、アカシアなどの花を求めて南から北へ移動する旅は、ちょっと考えるとロマンチックに思えるかもしれないが、自然を相手にする過酷な旅だ。もし、興味を持たれたら、拙著『ミツバチの旅』(朝日新聞社1970年 版元品切れ)をお読みいただきたい。
 アメリカの転地養蜂家の生活も撮影されているが、日本と比べるとスケールの大きさがまるで違う。世界最大といわれるカリフォルニアのアーモンドの畑というか林というか、その壮大さは、日本では考えられない。
 しかし人間の勝手で、畑には農薬が散布され、種族間の交雑といった問題も起こってきた。「家畜化」したミツバチも、その生態系に変化が起こっている。
 アフリカ原産の獰猛な「殺人ミツバチ」の存在も分かってきた。しかし、良い蜜が採れる。人間と自然との共存、共栄を考えされられる映画だった。

×月×日 嵐山光三郎さんが「週刊朝日」(6月20日号の連載コラム「コンセント抜いたか」で、拙著『食彩の文学事典』(講談社)を「変な人が変な本を書くのだよ」というタイトルで、9冊のなかの1冊に取り上げてくれた。
 数ある新刊の中から、自らお買い求めいただいたらしい。それだけでもありがたいことだ。
<いろんな人がいろんな本を書いていて、どの人もちょっと変人。本が売れなくたったといったって、変な人たち(私もふくめて)が変なことを考えて、変な本を書いておるのだよ。これを読まずにおられるものか。>
 もちろん、ここで私というのは嵐山さんだ。変な人の変な本、というのは、現代では、大変な褒め言葉と言ってよい。もちろん筆者も「変な人」であることに、誇りを持っている。感謝。

×月×日 シネマ落語「落語研究会 昭和の名人」第7回は、古今亭志ん朝の独演会。演目は、「居残り佐平次」、「宗珉(そうみん)の滝」、「愛宕山」の3席。 
「居残り佐平次」は、あちこちの遊郭で、「居残り」を商売にしているという、いかにも落語的人物。
 川島雄三の名作映画「幕末太陽伝」は、この佐平治が狂言回しとなって、「品川心中」、「三枚起請」、「お見立て」など、落語の噺を入れ込んである。フランキー堺が好演だった。
 佐平治は、弁舌さわやかが売りで、調子が良く、ちょっと古いけれども植木等の「スーダラ節」を地で行くような男だ。調子の良さと鋭い勘働きを必要とする。高座でもテンポよく、リズミカルに運ばないといけない。ところがこの噺、落ちが、ちょっと分かりにくい。
 首尾よく引き上げていった顛末(てんまつ)を聞いた廓(くるわ)の主人が、「畜生、どこまで私をおこわにかけるのだ」と悔しがるのに、若い衆(し)が、「旦那の頭が胡麻塩(ごましお)でございます」とサゲる。
 おこわ(強飯)は赤飯のこと。赤飯には、胡麻塩を掛ける。しかし、「おこわにかける」とは「人をだます」意味だ。多く、「美人局(つつもたせ)」の場合に用いる、と辞書にはある。
 つまり、駄洒落なのだが、こじつけに過ぎず、上等なサゲではない。大作に限ってつまらない駄洒落でサゲる噺がある。三題話だからやむを得ないが、「鰍沢(かじかざわ)」の「お題目」と「材木」のこじつけも上等とは言い難い。

×月×日 ソムリエといえば、ワインと決まっていたものだが、最近は、わざわざ「ワインのソムリエ」と断らなくてはいけないらしい。
 つまりワイン以外にも、野菜だとか、チーズ、肉、魚、日本酒、本など、あらゆる分野で、「ソムリエ」が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しているからだ。
 そのうち、薬剤師は、「薬のソムリエ」に、医者は「病気のソムリエ」と呼び名を変えるまでには、ならないか。

×月×日 サッカーのワールドカップが開幕した。日本はコートジボアールに逆転負け。いくら日曜日の午前中とはいえ、NHKのはしゃぎぶりは、常軌を逸している。定時のニュースもかなりすっ飛ばした。
 安倍首相と同じで、自分に酔っている。サッカー人気を利用して、安倍批判の矛先(ほこさき)を交わそうという深謀遠慮、奸計(かんけい)があるのではないかとさえ、疑いたくなる。
 翌日の朝日新聞の社会面の見出し、「列島 ブルー」が秀逸。

×月×日 初日に好スタートを切ったゴルフの全米オープンでの松山英樹選手は、後半に失速してしまった。しかし22歳という若さで、前の週のPGAツアー(メモリアル・トーナメント)初優勝を果たしたのは快挙だった。
 丸山茂樹が、優勝直後に松山と電話で話したという。「よかったです」と「ありがとうございます」で、相変わらず松山の「コメントは薄かった」と「週刊朝日」に書いていた。
 それはまだ若いし、松山英樹の人間性というもので、意識して語彙(ごい)を増やしていけば、そのうちコメントも「厚い方向」へ向かうのではないか。
 しかし丸山も、「今までアメリカツアーで優勝したのはたったの3人(青木功、丸山茂樹、今田竜二)しかいないのだから、ハーバード大学へ入るより難しい」、とテレビでしゃべっていたが、そういうのを「厚いコメント」というのかなあ。(14・6・18)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。