第107回 よってたかって夏らくご、「回収」した雑誌が、「sold-out」とは、黒田官兵衛、ジョコビッチとフェデラー

×月×日 例によって、会のタイトル名が意味不明の「21世紀スペシャル寄席ONEDAY よってたかって夏らくごNIGHT2014」を有楽町駅前の「よみうりホール」で。
 前座の柳亭市助「弥次郎」で幕開け。
 桃月庵白酒「宗論(しゅうろん)」、春風亭一之輔「百川(ももかわ)」、柳家三三「夏どろ」、柳亭市馬「大工調べ」。
 市馬の落語家協会会長就任披露の趣(おもむ)き。53歳の市馬は、ダイエットに務め、少しほっそりした。「大工調べ」では、自慢ののどを聞かせるわけにはいかない。

×月×日 「食生活ジャーナリストの会」(JFJ)の若い幹事たちと、中野の居酒屋で会食。フリーランスの人たちは、なかなか先輩編集者や記者から経験談を聞くことができないから、私のような者で良ければ、少しでもお役に立ちたいとは思う。
 しかし、酒が入って喋(しゃべ)りだすと、多くの記者や編集者は過去の自慢話に熱が入る性癖がある。自戒はしているつもりだが、面白く聞いてもらおうとすると、つい……。

×月×日 男性向けの月刊ファッション誌「Free & Easy」(イースト・コミュニケーションズ発行)5月号で、赤瀬川源平さん、角田光代さん、南伸坊さんに無断で安西水丸さんの「追悼文」をでっち上げて掲載した話は本稿の103回に掲載した。
 その後、版元は次の6月号で陳謝し、当該号は自主回収したことで落着した、と思っていた。ところがどっこい、版元は問題の本質をまったく理解せず、反省もしていなかった。
 お詫びを掲載した6月号のバックナンバー紹介のページで、回収したはずの5月号は、「sold-out」になっている。この件を世に知らしめるきっかけを作った日本文藝家協会は協会ニュース6月号で、<読者は、いい記事が載っていたから、売り切れたと思うはず。これだけの大規模な著作者人格権侵害事件を起こしておいて、「sold-out」とはとんでもない>(中沢けい理事)と、さらに追及する姿勢を示している。
 法的な措置を取ることも検討されているようだ。多くの人に著作権問題を理解してもらうためにも、ここは徹底的に糾弾してもらいたい。 

×月×日 両国にある江戸東京博物館の特別展「軍師 官兵衛」へ。もちろんNHKの大河ドラマに因んだもの。黒田官兵衛といえば、九州の福岡藩主で、「黒田節」で知られるが、出身は姫路だ。
 兵庫県の姫路文学館で、「官兵衛と軍師を描いた文豪たち展」が催され、話をするための予習。自慢するわけではないが、NHKのドラマは観ていない。
 館内は、貴重な資料を守るために照明を暗くしているのは分かるのだが、説明の文字が暗すぎて良く読めない。もう、建物自体が古くなったのかもしれない。
 ところで、明治初期に福岡市が発足した際、名前を福岡にするか、博多にするかでもめたらしい。市名は福岡で、駅名は博多で決着した。
 作家の童門冬二さんは、官兵衛が中津から福岡へ移ったときに、「いっそ姫路にする選択肢もあったのでは……」と『黒田官兵衛—知と情の軍師』(時事通信社)に記している。となると、姫路はどうなっただろう。
 特別展を観終わってから、時分どきだったので、一部のグルメといわれる人が称揚する、近くの「江戸蕎麦」の看板を掲げた店をのぞいてみたら、「お客様へ 本日は五時半から開店します」と玄関にあった。
「勝手ながら」や「都合により」といった言葉もなく、ましてや、「申し訳ありません」の気持ちのかけらも感じられない。こういうのを「木で鼻を括る」というのだろう。「パート募集」の、文字が印象に残っただけ。
 かつてこの店に一人で入った女性が、席で競馬新聞を広げたら、「止めてください」と注意されたそうだ。店内に設置された監視カメラを奥で看ているらしい。こちらは、そのカメラの位置を確認して、ことの「真偽」を確かめようとしただけだが……。
 やはり、動機が不純だったか。

×月×日 ワールドカップの実況中継もないので、ゆっくり眠れるかと思ったら、ウインブルドンの男子決勝が始まった。2セット目をノバック・ジョコビッチ(セルビア)が取って、1-1となったところで、長くなる予感がしたので、お休み。
 夜中に目を覚ましたら、ちょうど第5セットが始まるところ。とうとうロジャー・フェデラー(スイス)が力尽き、ジョコビッチが3年振り2回目の優勝となった。4時間近い熱闘は、近ごろ稀なる「好勝負」だった。(14・7・9)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。