第122回 「第三春美鮨」、師走選挙、「鮨処 小倉」、談志まつり、品位に欠ける横綱

×月×日 新聞社の後輩で社会部出身のSさん、自由が丘の「鮨処 羽生」の健さんと新橋の「第三春美鮨」へ。ご主人の長山一夫さんとSさんは、早稲田大学の同期生。共通の友人が多く、話が弾んでいた。
 長山さんは、寿司職人として全国の漁港を数多く訪ね回っている稀有の人。テーブルの上にはその日の仕入れた魚介の産地、生産者(釣り上げた船名)、魚体の重量などが記され、競馬の予想新聞のように、◎、◯、▽、☆が付いている。◯は旬の魚で、☆は本日の注目の魚とのこと。
 例えば、シビマグロ(本来はキハダマグロの幼魚だが、ホンマグロの意味)は、青森県大間の第十七運龍丸が一本釣りで揚げた128キロで、熟成5日目、といった具合。
 真鯵(まあじ)は、兵庫県淡路島の沼島(ぬしま)で釣り上げた158グラムを浜締めしたもの。天然車海老(えび)は大分県姫島の流し網漁で獲った48グラム。こんな調子で、「出馬表」のごとくデータが書き込まれている。
 魚介だけではない。海苔(のり)はアサクサノリ種(絶滅危惧種)で、佐賀県有明海の島内啓次さん。山葵(わさび)は、マヅマ種の2年半、静岡県御殿場の田代耕一さん、と細かい。
 醤油はヤマキ醸造の3年熟成生絞り。酢はミツカンの「三ツ判山吹」で、お米は新潟県中条町の「特別栽培米研究会」が作ったコシヒカリ。
 この予想紙風「品書き」を長山さんは、毎日2時間近く掛けて丹念に自筆で記している。

×月×日 円安が加速しているのは、海外旅行への意欲が薄れてしまう。降って湧いてきたような突然の「師走選挙」。ただでさえ、落ち着かない歳末が余計に慌ただしくなった。
 年賀状の準備もしなくてはならないのだが、歳を取った所為か億劫だ。

×月×日 柴田書店の「月刊専門料理」Y編集長、フリーライターのH子さんと学芸大学の「鮨処 小倉」へ。蝦蛄(しゃこ)、鱈の白子、メヌケの蒸し物などを肴にブルゴーニュのクレマン。寿司店の情報なども肴に、福井県勝山市の「一本義」を一合ぬる燗で。寿司屋の来し方行く末の話が弾んだ。
 握りはヤリイカ、青柳、小肌、鯵(あじ)、鮪(まぐろ)の漬け、など。

×月×日 有楽町のよみうりホールで、「落語立川流創立30周年 特別公演 談志まつり 2014」。開演が5時というのは、いくら土曜日とはいえ、いかにも中途半端で落ち着かない。
 早いもので、談志が亡くなってから3年が経過した。談志が柳家小さん(5代目)の許から飛び出して30年というのも早い。
 立川談奈、立川晴の輔、立川雲水と若手が露を払ってから、談志と仲の良かった三遊亭円楽が、談志のふりと語り口を模写して登場し、桂枝雀(しじゃく)作の「いたりきたり」を話したところで、中入り。
 トークショーは、立川志らくの司会で、円楽、立川左談次、松岡ゆみこさん(談志の長女)が談志のエピソードを語った。練馬の談志の自宅を、志らくが借りるとのこと。
 立川談慶が「権兵狸(ごんべいだぬき)」、志らくが「粗忽長屋(そこつながや)」、トリは左談次の「五人回し」でお開き。

×月×日 大相撲は結局白鵬が圧倒的な強さを見せて優勝した。鶴竜が12日目の対豪栄道戦で、立ち合いに変化して顰蹙(ひんしゅく)をかった。土俵下で照ノ富士にダメを押した白鵬といい、横綱の品格に欠ける。彼らを見ていると、「みっともない」のひと言に尽きる。
 このような横綱が放縦(ほうしょう)な振る舞いを続けるようだと、大相撲に明日は無い。3人の日本人大関の内、2人までが負け越しているだらしのなさも、大きな原因だけれども。
 九州場所で幕内以上の関取は42人いたが、なかで外国人力士は16人。この数字は増えていくのかどうか。明日の大相撲に大きな影響を与えていく数字だ。
 千秋楽に勝ち越しがかかった7勝7敗の力士は、8人いたが、うち7人が勝って勝ち越しを決めた。負けたのは、松鳳山一人だけ。8勝6敗で勝ち越しを決めていた旭秀鵬に寄り切られた。7勝7敗同士の取り組みは一番も無かった。
 かつて相撲の大ファンだった音楽評論家の吉田秀和は、7勝7敗の力士が千秋楽で勝ち越すケースが多いことについて、「武士の情け」、「惻隠の情」は日本人の美徳、と言った。難しい問題だけれども、こう、あからさまに「美徳」を見せつけられるとなあ。(2014・11・25)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。