第124回 銀座の「いまむら」、「千本桜ホール」の菊之丞、飲食店のネット予約

×月×日 2か月ぶりに銀座の割烹「いまむら」へ。しばらく足が遠のいたうちに日本酒の銘柄がかなり増えた。佐賀県嬉野市の五町田酒造の「東一(あずまいち)」、新潟県魚沼市の「緑川」と南魚沼市の「鶴齢(かくれい)」など。
 燗酒は「菊正宗」だけだったが、福井県永平寺町の国龍酒造の燗酒用の「九頭龍(くずりゅう)」を勧められた。燗上がりする分かりやすい酒だった。 
 ヒゲダラのお椀、キジハタの蕪蒸(かぶらむし)など。冷え込んでくると、どうしても日本酒の季節となる。四季の変化に食材と調理法が素早く対応するところが、日本料理の日本料理たる所以(ゆえん)で、ユネスコの世界遺産に認定されたのもむべなるかな、だ。

×月×日 東急東横線「学芸大学」駅前の「千本桜ホール」で、目黒区鷹番三丁目本通り商店街振興組合主催の落語会。講談の講釈師は落語に比べると、めっきり数は少ないが、その中で最も若い二つ目、神田松之丞(まつのじょう)が開口一番。落語芸術協会にも所属している。講釈師を目指す最近の若い人は、女性の方が圧倒的に男性より多いそうだ。
 色物の太神楽(だいかぐら)は鏡味味千代(かがみ・みちよ)。国立劇場の太神楽養成所で、芸の指導を受けた。その前はキャリアウーマンで、企業の広報を担当していた。文字通りの「脱サラ」で、華麗なる転身だ。現在は太神楽曲芸協会に所属し、英語とフランス語に通じているという異色の人。トリは地元の目黒区在住、古今亭菊之丞(ここんていきくのじょう)が手馴れた「幾代餅(いくよもち)」で締めた。
 鷹番3丁目は、私が子供の頃の三谷町(さんやちょう)で、本通りというのは「用水道路」と呼んでいた。昔は用水だったのだろうが、当時は大きなドブが、東に向かって左側を流れていた。現在は暗渠(あんきょ)となり、バスが通っている。
 帰りに駅前の「やぶそば」で、燗酒と「花巻き」。今や、「花巻き」は絶滅危惧種となった。さすが、昭和9年開業という老舗だけのことはある。

×月×日 最近、レストランや和食の割烹などで、ネットによる予約を受け付ける店が増えた。混雑状況を明示している店もある。2、3人でやっている店などでは、電話の対応に忙殺されることもなく、便利なのだろう。
 この種の店では、キャンセルやノーショウ(何の連絡もないまま、現れない)が増えているという。ドタンキャン(土壇場キャンセル)は、大きい店なら、影響は少ないかもしれないが、7、8席しかない小さな店では、大変な災難だ。ホテルは、当日キャンセルの場合は室料の何割といったキャンセル料を支払うようになっている。実際にどれだけの人から徴収しているかは、わからないけれども。
 知っている和食の店で、定刻になっても現れないので、主人がケータイに電話して、キャンセル料の支払いを求めたら、「明日、日本を出国する。取れるものなら取ってみろ」と、いわれたそうだ。
 どうも、複数の店を予約しておいて、参加者の都合などを調整して、一軒に絞るらしい。当然、他の店はキャンセルとなるが、断りを入れれば良いものを、無断で現れないものだから迷惑を掛ける。
 だいぶ前の話だが、6客しか入れないすし屋で、隣の3席が空いたままだったことがある。主人は、「これは、やられたな」と憤懣やるかたない表情だった。こうなると、食べている方も気分が良くない。この店は、評判が良かったので、同業者による「嫌がらせ」だったのかもしれない。
 私は、ネットを使った予約は試みたことはない。その種の店は、こちらから避ける。だから予約は電話で入れる。何時ごろ掛けるのが良いのか、掛ける時間が難しい。相手の忙しさを考慮に入れないといけない。お客が立て込んでいるような時を避けるのも、気配りというものだ。
 電話口に出た店の人の対応で、店の雰囲気もある程度は分かる。口のきき方一つで、行く気が失せてしまう店もある。
 フェイスブックを見ていると、「今日はキャンセルが出たので、援軍の登場をお待ちしています」という、店にとってまことに都合のいい「近況」がときどき目につく。これはこれで、ネットのきわめて有効な「存在理由」かも知れない。(14・12・10)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。