第125回 映画「白夜のタンゴ」、「COP20」のイントネーション、土田美登世さんの『やきとりと日本人』、毎日新聞の競馬予想

×月×日 渋谷の「ユーロスペース」で、映画「白夜のタンゴ」を観る。
 タンゴといえば、「情熱」という言葉とともに、すぐに南米はアルゼンチンの国名が浮かんでくる。ところが、「実はフィンランドこそがタンゴ発祥の地」という説がある。
 それを聞いたアルゼンチンの音楽家3人(歌手、ギタリスト、バンドネオン奏者)は、「信じられない」という表情だった。しかし好奇心に満ちた3人は、「実際にこの目で確かめなくては」と、北欧へ向かう。
 南米でラテンの血が色濃く流れるリオデジャネイロの喧騒に溢れる猥雑な大都会から、森と湖に囲まれて短い夏の白夜を楽しむフィンランドに渡った3人の旅には、多くのミュージシャンたちとの出会いが待っていた。
 確かにフィンランドにタンゴはあった。それはフィンランドの風土を反映した静かな旋律とリズムに彩られていた。要するに、銘菓の「本家・本元争い」と同じで、「元祖」と「本家」のような関係だが、そんなことはどちらでも良い。 
 大事なことは、音楽を通してコミュニケーションが通じ、生活している人たちが楽しめば良いだけのことだ。フィンランドの若い人たちは、タンゴを離れ、ポップ・ミュージックやロックを楽しむようになった。
 アルゼンチンでも、その傾向なしとはしないが、情熱と哀愁をおびたタンゴは国民音楽として愛され続けている。3人は多くの人と出会い、タンゴの魅力を確認するのだった。
 そういえば、コンチネンタル・タンゴという言葉があった。アルフレッドハウゼ楽団の「碧空(あおぞら)」という曲が知られていたが、最近はとんと聴かなくなった。

×月×日 NHKの正午などの全国ニュースを担当している高瀬耕造アナは、チリで行われている「COP20」を「コップ二重」と発音する。
 どうして誰も注意しないのだろう。不思議だ。この高瀬アナは、御嶽山(おんたけさん)を「おたけさん」、石廊崎(いろうざき)を「いしろうざき」と読むなど、ちょっとおかしい。 他のアナウンサーは、だいたい、きちんと「20」と発音しているが、現地に特派されている記者やニュースキャスターの中にも、「二重」と発音する人がいる。
 それにしても、COPとは、「国連気候変動枠組み条約締約会議」と言うらしい。これを聞いただけでも、「まとまりにくい会議」ということが分かる。

×月×日 旧知の土田美登世さんの『やきとりと日本人』(光文社新書)が発売になった。労作である。
 もともとは、野鳥を食べたところから説き起こし、鶏から豚などの臓物を串に刺す「なんちゃって焼き鳥」まで、そのルーツと進化、発展していった足跡をたどっていく。
 縄のれんの「オジサン焼き鳥」から、女性客が多く、ワインとともに楽しむ「おしゃれ焼き鳥」まで、現在の「焼き鳥文化」は多彩だ。フランスなど、西欧の人たちにも受け入れられている。もちろん昨今の日本食ブームとも無縁ではない。
 土田さんは、ご当地焼き鳥として知られる北海道の室蘭や愛媛県の今治にまで足を伸ばして取材行脚を続けた。効率を追求して生まれたブロイラーから、飼育に趣向を凝らしたブランド鶏に至るまで丹念に調べあげ、日本の養鶏史ともなっている。特に流通の仕組みまで、論述した書物は今までほとんど無かった。その意義は高い。
 さらに「脇役」というか、熱源の「備長炭」にまで筆が及んでいるので、読み物としてのふくらみが増した。
 取材した膨大な資料の海に溺れかけたところ無しとはしないが、土田さんの「焼き鳥」に賭けた熱意と執念がその窮地を救ったようだ。

×月×日 毎日新聞の競馬予想を担当している松沢一憲編集委員の調子が良い。一般紙の予想としては、数少ない「大穴狙い」で、意外な馬に◎を付けることが多い。当然、はずすこともあったが、ここのところ絶好調が続いている。
 G1の「阪神ジュベナイルフィリーズ」でも、6点予想で、3連複を的中させた。こうなると、有馬記念も注目せざるをえない。そろそろ外れる頃かも知れないけれども。
 Yahoo!(ヤフー)の競馬ページ(スポーツナビ)では、「たまちゃん」の名前で「今週のワンポイントアドバイス」と「予想」を掲載している。

×月×日 第47回衆議院総選挙は、自民、公明の圧勝に終わった。新聞の見出しを見ても、どこか今ひとつ盛り上がりに欠けていたことは、否めない。
 毎日新聞の見出しには、「自民大義なき独走」の大きな活字が躍っている。「さまよった1票」とか「民主、新党に失望」という言葉も見える。まさに実感だ。にわかに「憲法改定」が身近に感じられるようになった。
 友人の、フェイスブックのコメントには、「嫌な時代の幕明けとならないよう、祈るのみ。なにか空しい。そう考えてはいけないのだが」とあった。
 確かに、その通りだと思う。次回の選挙は、投票率をもっと上げないと大変なことになる。
 いとうせいこうさんがネットの政治メディアサイト「ポリタス」で呼びかけた「一羽の鳥について(あらゆる選挙によせて)」は、まだまだ読まれ続けてほしい。(14・12・17)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。