第126回 サヨナラ「アサッテ君」、「難波田史男の世界」、志美津やのそば、有崎勉作の落語、田園調布窯の巨匠

×月×日 毎日新聞朝刊の連載漫画、東海林さだおさんの「アサッテ君」が、2014年の12月31日で終了することになった。横山隆一さんの「フクちゃん」の後を継いで、1974年6月16日から始まったので40年以上、1万3749回になる。これは、日本新聞漫画史上に燦然(さんぜん)と輝く、前人未到の最長不倒記録だ。
 1977年から約8年間、8コマの時代があった。高度成長経済を迎え、新聞紙面にも余裕が生まれ、新聞活字も大きくなった時代だ。コミックが全盛で、電車の中でもいい年をした中年紳士が漫画週刊誌を広げていた。
 私は、この8コマの新聞漫画に大きな期待を持った。東海林さん以外にはできない企画だったのだが、1985年には元の4コマに逆戻りしてしまった。社会面左上の「一等地」に漫画が「のさばり過ぎ」、という批判があったと聞く。
 日本人の「ユーモア」を理解し、許容するセンスは、この程度だったのだろう。期待が大きくふくらんだだけ、落胆もはなはだしかった。
 なお、アサッテ君の登場人物には、それぞれ名前がある。普段は、あまり意識していないので、ここに紹介して長年のご労苦に感謝したい。主人公は、「春男」・「秋子」夫妻。長男の「夏男」、長女の「冬美」兄妹。「昼吉」おじいちゃんに、「夕子」おばあちゃん。猫は「マイ」、犬は「ニチ」。猫と犬で、「マイニチ」となる。 
 東海林さんは、私より2歳上の77歳。文筆の才は、ますます好調だ。一層の健筆と健勝を願うばかりだ。

×月×日 世田谷美術館で開かれている、「難波田史男(なんばだ・ふみお)の世界——イメージの冒険」と「北大路魯山人(きたおおじ・ろさんじん)展——塩田コレクション」を観る。
 早逝した難波田史男には、池田満寿夫の影を感じていたが、版画の技術は彼から学んだという。私より2歳下で、60年安保闘争を学生時代に体験している。
<不条理の最高の喜びは創造である。
 この世界に於いては、作品の創造だけがその人間の意識を保ち、その世界のさまざまな冒険を定着する唯一の機会である。
 創造すること、それは二度生きることである。>(27、8歳頃のノート)
 
 北大路魯山人を終生支援し続けた塩田岩治(元利根ボーリング社長)氏のコレクションや書画、書簡類が陳列されている。平たく言えば、日用の食器類だから、塩田家で普段に用いられていたものもある。
 魯山人の作品は、今や芸術品扱いだが、使われてこその「魯山人」だろう。

 帰路、小田急線の千歳船橋までバスで出て、東野川のそば屋「志美津や」へ。歩くこと数分、住宅街の中に一軒だけぽつねんと営業している。隣町に住む会社の後輩のSさんを呼び出して一盞(いっさん)。
 地名は狛江市東野川だが、Sさんに言わせれば、「奥成城」だと言う。そのうち「成城」には、軽井沢のように、南、西、北、奥と「冠詞」が付いて、自動車のナンバープレートにも登場するかもしれない。
 蕎麦は10割そばを標榜し、「駄蕎麦風店構え」からは想像できない「鄙(ひな)には稀な」のど越しと香りの良い蕎麦だった。再訪するつもりだ。

×月×日 マリオンの朝日名人会。2015年の3月には真打に昇進して、柳家燕弥(えんや)を襲名する予定の柳家右太楼が「締め込み」。柳家三三が「真田小僧」。三三は春風亭一之輔への対抗心を「まくら」で露(あらわ)にしていた。
 柳家さん喬が、師走にふさわしい「掛取万歳(かけとりまんざい)」。古今亭菊之丞が「素人鰻」。トリの五街道雲助の「夜鷹そば屋」は有崎勉の作(原題は「ラーメン屋」)。
 子どものいない夜鷹そば屋の老夫婦が、そろそろ店じまいにしようとしているところに、一人の若者が入ってくる。若者はそばを3杯食べるが、金の持ち合わせがないから、自身番へ無銭飲食で突きだしてくれという。屋台を自宅まで運んでやった若者と老夫婦の「家族ゲーム」は意外な結末を呼ぶ。まさに一篇の掌編小説の味わいだ。
 有崎勉は、初代柳家金語楼のペンネーム。晩年はテレビの初期に活躍した人気コメディアンだった。今なら、「お笑いタレントの大御所」といったところ。
 多くの新作落語を遺しているが、この作品は、代表作と言ってもいい。

×月×日 渋谷の東急Bunkamuraのギャラリーで行われている「ウインター・クラフト・コレクション」に、このネッセイのタイトル文字を書いている原田百合子さんが出店している。通称は「田園調布窯の巨匠」だ。
 すでになじみのある鳥壺やキャンドルカバーなど、力作が目白押しだ。商品の並べ方ひとつで、売れ行きに大きく影響するものらしい。
 一朝一夕には、メジャーになれない。最近韓国へ行って大きな刺激を受けてきたらしい原田百合子さんのますますの躍進を期待している。

◇今年も皆様がたから温かいご支持を頂き、有難うございました。本年度のアップ(掲載)は、今回が最終稿で、次回は2015年1月21日の更新を予定しております。
 皆様、どうぞ良い新年をお迎えください。(14・12・24)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。