第129回 白鵬の慢心、錦織圭選手のベスト8、権太楼の「居残り左平次」、イチローの入団会見、後藤健二さんの死

×月×日 横綱、白鵬の言動が物議をかもしている。優勝した翌日の恒例の記者会見での発言だ。定刻よりかなり遅れて登場し、13日目に取り直しとなった稀勢の里戦に触れた。
「なぜ、取り直しだったのか。ビデオを見直しても最初の一番で勝っていた。子どもの目でもわかるような相撲だった。審判部はもっと緊張感を持ってやってほしい」と言いたい放題。
 北の海理事長も横綱審議員会もこれには、びっくりしただろう。国際サッカーなら、罰金が科せられるところだ。
 白鵬の足の裏が返っていて、先に足の甲が土に付いているから、負けを主張した検査役もいたという。「子どもの目でもわかる」とは、驕(おご)り、慢心以外の何ものでもない。
 千秋楽には、「これより三役」の入場が遅れ、土俵上で取り組み最中に、控えに座るという失態をしでかした。翌日の紙面では、各紙は取り上げていなかったが、前代未聞のことだ。野球でも次打者はウエイティングサークルに入り、待っていなければならない。れっきとしたルール違反だ。
 白鵬の態度、品格には問題が多すぎる。宮城野親方(元幕内竹葉山)の「詫び」で一件落着となると思われたが、白鵬自身もテレビ朝日の番組に出演して、「おわびしたい」と謝罪した。怒りの拳を振り上げた横綱審議会や審判部長もこれで納得するのかしらん。自分が主催した「わんぱく相撲」の記者会見でも、「発言」についての質問を禁じたという。これでは、とても反省の意は感じられない。協会も協会なら、唯々諾々と「禁じ手」を受け入れるメディアもメディアだ。
 協会は、一度、罰金でも科すべきではないか。

×月×日 残念ながら、全豪オープンテニスの錦織圭選手は、準決勝に進出できず、ベスト8で消えてしまった。不幸にも、私の予想が当たったことになる。また、次戦に期待するほかない。

×月×日 落語「よみらくご」の第一回。桂文治の弟子のたか治が「お初天神」で開口一番。桂宮治が「徳ちゃん」、桂歌丸が「紺屋高尾(こうやたかお)」、柳家権太楼が「居残り左平次」と冬の廓(くるわ)話。
 インフルエンザで床に伏していた歌丸が登場したが、声の張りも無く、元気がなかった。やはり、吉川潮氏の言うように、芸術協会会長の座を副会長の三遊亭小遊三に譲って、若返りを図ったほうが良い。
 権太楼の「居残り左平次」のサゲは、「居残りだけでなく居直られたら、たまらない」だった。
 本来は、主人が「どこまでおこわにかける気だ」と怒る。すると店の若い衆(し)が、「へい、旦那の頭が胡麻塩です」でサゲる。
「おこわにかける」というのは、「一杯食わす。だます」の意味で、「美人局(つつもたせ)」にも使われる。おこわ(赤飯)にかけるから、胡麻塩という洒落だ。ちょっと説明が要るので、権太楼が、自分で工夫したのだ。

×月×日 イチロー選手が、MLBナショナルリーグのマイアミ・マーリンズに入団が決まった。入団発表が東京で行われたが、きわめて異例だ。
「応援よろしくお願いします。とは、私は絶対に言いません」というコメントが良かった。野球に限らず、何とかの一つ覚えみたいに「応援よろしくお願いします」というのが、スポーツ界の「定番」で、 ボキャブラリーの貧困さを物語るものだ。
 安倍首相の「丁寧に」とか、岸田外相の「緊張感を持って」と言い続けるのも同根だ。

×月×日 湯川遥菜(はるな)さんに続いて、後藤健二さんも、「イスラム国」と名乗る組織に殺された。無事に生還してほしいという一縷(いちる)の望みはかなわなかった。
 これで、また一段とイスラム教に対する憎悪の念が増すだろう。イスラム教信仰者の一部の過激派の行動だが、そこまでは理解できても、心情的に納得はできない人が大多数ではないか。
 空爆はさらに拡大するだろうが、もし組織が壊滅状態になっても、地下に潜ってテロ活動がますます活発化することが予想される。宗教を巡る戦いは、凄惨な結果となり、簡単に終わることはない。歴史が教えるところだ。(15・2・4)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。