第130回 全国やきとり連絡協議会、「すし処小倉」、恵方巻き、『タルト・タタンの夢』、少年法と実名報道、人質殺害映像と小学校の社会科授業

×月×日 全国やきとり連絡協議会(略して「全や連」)なる団体がある。各地のご当地焼き鳥を食べられるというので、大手町のサンケイビルにある総本店に出かけてみた。
 大手町のビルの地下だから、縄のれん的雰囲気には欠けるが、モダンなビヤホールというか、カフェ的焼き鳥屋だ。
 美唄(びばい「やき鳥たつみ」)、室蘭(「やきとりの一平本店」)、福島(「鳥料理 鳥安」)、埼玉県東松山(「やきとり ひびき」)、山口県長門(「焼とりや ちくぜん」)、今治(「焼鳥 まる屋」)、久留米(「焼とり鉄砲」)の7軒が、それぞれの自慢の味を出している。
 7種の食べ比べセットが1,480円。東松山は豚、久留米は牛だった。焼き鳥と名乗っているのに、なぜ、豚や牛が供されるのかは、土田美登世さんの好著『やきとりと日本人』(光文社新書)に詳しい。

×月×日 節分も過ぎたというのに、年賀状が、「あて所に尋ねあたりません RETURN UNKNOWN」とスタンプが押されて返ってきた。いくらなんでも、遅すぎるだろう、目黒郵便局と玉川郵便局。「お年玉」の抽選を待っていたのかもしれぬ。
 電話を掛けても、なかなかつながらないので、あきらめる。文句を言うのには、無用なエネルギーが掛かりすぎる。いくら郵便事業が儲からないといっても、最近の郵便事情はひどすぎる。

×月×日 前出の『やきとりと日本人』の著者、土田美登世さんと学芸大学の「すし処 小倉」で、次作について、打ち合わせをしていたら、Sミュージックのチーフプロデューサー、廣瀬健一さん夫妻と邂逅。
 ワイン商社勤務の妙子夫人は、よく存じ上げているが、ご主人とは初対面、ではない。一度、カウンターで拝顔したことがあったが、会社の部下とご一緒だったので、挨拶し損なったことがある。
 店主の小倉一秋さんは、月刊「専門料理」の2月号で、「鮨職人の握りと酒肴」で紹介された。

×月×日 節分だというので、「恵方巻き」が大流行だ。コンビニの影響力はすごい。元々は関西の色町の「お遊び」だった。節分には「お化け」と称して、芸妓たちが「仮装」をして楽しむ。鬼の役が必要だったからだろう。
 海苔巻と言えば、干瓢(カンピョウ)が常道で、太さは、細巻きかせいぜい中巻き程度。それはそうだろう、さんざん飲んだ後に一本も食べるのだから、太巻きでは大きすぎる。
 ところで、名古屋の三越栄(さかえ)店では、揚げてないみそカツをそのまま巻いた太巻きを34本も売ってしまったという。なぜ、気が付かなかったのか。
 多分、ロボットで巻いたのに違いない。それにしても、みそカツが入った海苔巻がある、というのも驚きだ。
 回転すしの影響は、コンビニと並んで大きいことが分かった。

×月×日 夕方というのか、午後6時台の民放テレビのニュース番組は、こぞって「食べ物」の話題を扱っている。NHKだって、5時台には、結構取り上げている。
 時代小説やミステリーも、「食べ物」をテーマにした作品が多い。テーマというより、「バックグランド」といえば良いのか。
 評判が良い『タルト・タタンの夢』(近藤史恵・創元推理文庫)を読む。下町の片隅にある、「ビストロ・パ・マル」が舞台。カウンターが7席にテーブルが5つ。小さなフランス風居酒屋だ。
 店長でシェフの三舟忍はフランスの田舎のオーベルジュ(旅籠)などで修業してきた本格派。まだ30代。厨房には志村洋二と二人。志村は高級ホテルの調理場に居たが、三舟に傾倒して勤めるようになった。ソムリエの金子ゆきは、ワイン好きが高じて、脱サラした転職組。俳句が趣味。ギャルソンはぼくこと高築智行だが、まだ2か月しか経験がない。
 この店に来る客と出す料理を巡って、小粋な謎を解決する話だ。別にミステリーという程の大げさな仕掛けがある訳ではないし、殺人事件が起きるわけでもない。
 フランス料理の薀蓄を楽しみながら、レストランの舞台で演じられる人間ドラマを楽しめばよい。評判が良いのは、よく分かる。力を入れなくても楽しく読めるし、悪人もあまり登場しないので読後感が良いからだ。

×月×日 「週刊新潮」が、殺人容疑の19歳女子大生の実名と顔写真を掲載した。未成年者の犯罪なので、少年法によって実名を公表することは禁じられている。
 そんなことは百も承知で、「週刊新潮」はあえて報じた。
 NHKのニュースは、「問題がある」との立場から、学者の意見を紹介していた。少年法が社会の実状(もちろんネットの状況もある)とかけ離れているから、報道したわけで、それを建て前論から正義面(づら)で糾弾しても、あまり意味は無い。
 雑誌の存在意義は、建て前優先の正論に対するゲリラ的本音を表明することにある。いかにも、政府の顔色ばかりを窺っている会長を戴いているNHKらしい。

×月×日 名古屋市の市立小学校の20代の女性教諭が、イスラム国の殺害映像を5年生の社会科の授業中にみせた。授業のテーマは、「情報化社会の利点と問題点」で、教諭は、「報道の在り方と、命の大切さに目を向けさせたかった」そうだ。
 決して間違ったテーマではない。私も、大学で「ジャーナリズム論」を講じていたから、よく分かる。しかし相手が大学生でも、逡巡するところだ。当の教諭は「軽率だった」と反省しているようだが、違和感を覚えたのは、市の教育委員会の対応だ。「不適切だった」と、例によって雁首(がんくび)を揃えて頭を下げて、謝罪した。
 しかし、教育委員会が頭を下げればよいという問題ではない。確かに、「軽率」で「不適切」だったかもしれないが、その教諭の「ニュースに取り組む」積極的姿勢を、もう少しかばうことはできなかったのか。若い教諭を温かく見守り、育てるのも教育委員会の仕事だろうに。

(15・2・11)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。