第145回 三井永一リトグラフ遺作展、K先生の米寿のお祝い、『ああ、ウイグルの大地』の出版記念会、大学生の作文、シャンパングラスの流行り廃り、ドゥラメンテが二冠

×月×日 一昨年亡くなった画家の三井永一さんの「リトグラフ遺作展」が、文京区根津の画廊「リブレ」で開かれている。「週刊朝日」に連載された早乙女貢さんの小説『おけい』の挿し絵をお願いしたのが、最初の出会いだった。3人で奥会津というか、尾瀬に近い桧枝岐(ひのえまた)へ取材に行ったことがある。
 池波正太郎さん、風間完さんと4人で、熱海の鰻屋「重箱」(今はない)へ鰻を食べに行ったこともあった。池波さんの『食卓の情景』に詳しい。
 三井さんは山形県鶴岡市出身で、丸谷才一さんは中学の後輩だ。16歳で上京。春陽会洋画研究所に学び、木村荘八、中川一政、岡鹿之助らに師事した。
「版画なんて額に入れないで、まとめておいておけばいいんです」と、よく言っていた。その言葉通り、壁にピンで貼り付けただけの展示で、いかにも三井さんにふさわしい展覧会だった。 
 画家で装丁家の荒田秀也さん、エッセィストの海老名香葉子さんらの姿があった。

×月×日 中学時代の担任だった数学のK先生が満88歳になったお祝いの会をお茶の水の「ガーデンパレス」で。21名が出席した。これからも、1年に1回は集まろうということで、集合写真は撮らない。名簿も発行しない。会計報告もしないことになった。幹事の負担を減らすのと、あまり大袈裟にしないため。良いアイディアだと思う。
 K先生は数学が専門だが、オペラから歴史、文学に至るまで実に幅広い教養の持ち主だった。今でも、矍鑠(かくしゃく)として、熱弁を振るわれた。

×月×日 たびたび紹介して恐縮だが、詩集『ああ、ウイグルの大地』(左右社)の訳者の一人河合眞さんを囲んで、テニス仲間の出版記念会を自由が丘の「南国飯店」で。
 1963年に開店した「南国飯店」は、自由が丘の中国料理店の草分け。「魚米之郷」といわれる上海、江南地方の料理を得意とする。近くに住む曽野綾子さんも贔屓にしていた。神田の「新世界菜館」のオーナー、傅健興(ふう・けんこう)さんが修業した店でもある。肉団子とアワビ茸の煮物が美味しかった。
 次回はメンバーの喜寿のお祝いで、集まることになった。超高齢化社会の縮図だが、喜寿を過ぎてなおラケットを握れることに感謝。

×月×日 久しぶりに大学生が書いた「手書き」の作文を読んでいたら、皆同じような字を書く。実に不思議だ。なぜなのか分からない。いっとき女子高校生が書く、「丸文字」が話題になったが、片仮名の「ア」の字に、その影響が残っている学生が1割ほどいた。
 最初の横棒を水平でなく、丸く入るものだから、そのまま数字の「3」の上部を大きくした形で、漢字の「了」に似た、不思議な「ア」になっている。きちんと、「二画」で書かないものだから、頭が大きな「3」としか読めない。高校の先生は、注意しないのか。
 メールやフェイスブックの影響か、「ですます調」の文章が多い。「敬体」とか「会話体」とかいわれる。「文尾」の言葉が、「ます」ばかり続くことがあり、易しいように見えても、結構難しい。無駄な言葉が増え、軟弱(幼稚といってもいい)で冗長な印象を与えることが多い。就職試験の作文は、「である調」で書くことを勧めておきたい。

×月×日 シャンパンのグラスといえば、昔はお椀型で口が広く底の浅い「クープ」型に決まっていた。映画の「タイタニック」や「カサブランカ」を思い出すまでもない。飲む時に、あまり底を上げる必要がないので、女性が持つと優雅に見える。背が高くないから収納にも便利で、ホテルのパーティーなどにもよく用いられている。
 しかし、香りがすぐに飛んでしまうし、シャンパンの特徴である泡の「立ち上がり」を「観賞」することができない。そこで、細長い筒型の「フリュート」と呼ばれるグラスがもてはやされるようになった。これだと、静かに立ち昇っていく泡が美しく見える。さらに変化して、チューリップの花の形をしたグラスも登場した。
 最近では、「フリュート」をずんぐりと太らせ、ステム(脚)があまり長くないスタイルがトレンドの先端らしい。ビールグラスのピルスナー型に近い。ゴブレット型をやや細くした感じだ。ソムリエ世界一の田崎真也さんも勧めている。
 いずれにしても、飲む人の人柄とTPOに合わせて、楽しめばいいのだ。

×月×日 今年の「東京優駿」(日本ダービー)は、ミルコ・デムーロ騎乗のさつき賞優勝馬ドゥラメンテが優勝し、二冠を勝ち取った。デムーロは早くもダービーを2回も制している。3着に入ったサトノクラウンの乗り手も、外人のルメールだから、どうしても日本人騎手の実力を疑いたくなる。
 それにしても、巷(ちまた)でダービーをあまり話題にしなくなったような気がする。昔の「ダービーウイーク」は、もうすこし盛り上がった。馬券を買うのは、年寄りばかりで、若い人に「競馬ばなれ」の傾向があるのでは、あるまいか。(15・6・3)

重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。