第161回 鎌倉瑞泉寺、京都で過ごす年末年始、初金毘羅、『壽司的常識與非常識』(すし屋の常識・非常識)、中学時代のクラス会、落語で初笑い

×月×日 年末に鎌倉霊園へお墓参り。昼食は二階堂の瑞泉(ずいせん)寺の脇にある中華の精進料理「凛林(りんりん)」。福建省の精進料理の流れを汲む。英語では、Chinese Temple Cuisine というそうだ。オーナーシェフは横浜中華街出身の林清隆さん。父親の林訓美(りん・くんび)さんは、テレビ「料理の鉄人」で道場六三郎さんとジャガイモ対決で引き分けた人。静岡県生まれで福建省の華僑。やはり福建料理の名門、築地の「福新楼」の張仁富氏(故人)の指導を受けた。
 その香りを嗅げば、修行中のお坊さんでさえ、垣根を越えて跳んでくるほどの味といわれる福建料理の代表的なスープ、仏跳牆(ぶっちょうしょう)の壺が飾ってあった。牆は塀とか垣根の意味だ。干し鮑や干し貝柱、鱶の鰭などさまざまな乾貨を長時間にわたって戻し、蒸し上げたスープだ。普通は2週間ぐらい前に予約して置かないといけない。私は台湾の台北郊外、北投温泉の中華料里店で食したことがある。

×月×日 小さい時から、元日は静かに家に居るものと教えられて育った。お金も使わず、じわーっと家で過ごすのだ。昨今はすっかり休日感覚で、海外へ旅行する人も多い。生まれて初めて12月31日から京都へ出かけた。すべてお任せで至れり尽くせりのセット旅行だが、31日は八坂神社の白朮(おけら)詣りと知恩院の鐘の音で、新年を迎えた。まさに「行く年 くる年」を実感する。
 元日は、松尾大社、広隆寺、お昼は大徳寺大慈院の「泉仙(いずせん)」の鉄鉢(てっぱつ)料理、大徳寺の髙桐院。竜安寺の石庭を拝観してホテルへ。2日は上賀茂神社を経て貴船神社へ参拝。昼食は神社そばの「鳥居茶屋」。献立は次の通り。日本料理の献立は皿の上に在るものすべてを記すのが普通で、当て字や大袈裟な表現、さらに料理人の趣味もある。
 祝い肴 数の子・黒皮茸・千社とう(萵苣薹)・小川唐墨・ごまめ・より人参・独活(うど)
 御造里 鮪・寒平目・烏賊  青味大根、紅白人参他
 雑煮  (白味噌胡麻仕立て)焼丸小餅  頭芋・日の出人参・亀甲大根・ うぐいす菜・松魚・辛子
 蒸し物 甘鯛かぶら蒸し  かに身・百合根・木耳・雲丹・銀杏・山葵
 お重  鰊昆布巻・まなかつを味噌漬・とこぶし・玉椿かぶら・車海老・雲龍玉子・牛蒡月冠・りゅうひ巻
 家喜物 奉書焼  寒鰤酒粕漬・長芋・いくら
 御飯  湯葉がゆ・干し貝柱 ふかひれあんかけ・白葱・くこの実
 香の物 三種
 水物  湯葉ばばろあ柿そーす掛け  梨の甲州煮 
 萵苣薹(ちしゃとう)は京野菜の一種で、フダン草の別名がある。御造里はお造りで、刺身のこと。雑煮の「松魚」はカツオで、削りカツオ節をさす。
 りゅうひ巻は平目をりゅうひ昆布で巻いてあり、京都のお節には欠かせない。龍皮とも、求肥とも書く。
 まあ、豪勢な正月料理は外連(けれん)味に溢れていた。まさに非日常の世界。

×月×日 初金毘羅(はつこんぴら)で虎ノ門の金毘羅大社へ参拝する。若いカップルが目立つ。近頃話題の「パワースポット」探しと関係があるようだ。

×月×日 『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)が台湾で、『壽司的常識與非常識』(麥浩斯出版)として出版された。A4版で定価は340台湾元(約1200円)。香港ドルでは、113元(約1700円)とある。僅かながら、「印税」も支払われた。印税よりは、日本の食文化の理解と普及に役立てれば、こんなうれしいことはない。


×月×日 中学校時代のクラス会が、自由が丘の「状元楼」で開かれた。常連が15人くらい。訃音もたまに聞こえてくるが、ほとんどが達者で、老後の生活を送っている。
 ゴルフ、テニス、絵画など、それぞれ趣味を持っているから良いのだろう。そうでもないと、自分の病気か孫の自慢話に終始してしまう。

×月×日 初笑いということで、「朝日名人会」。入船亭子辰の「一目上がり」、柳家三之助の「甲府い」、春風亭一朝の「淀五郎」、柳家花緑の「初天神」、三遊亭圓楽の「明烏」。
 正月に因んだ噺もあるが、あまり関係ない噺もある。落語家の世界では、1月20日の中席までは、「おめでとうございます」の世界で、お年玉が通用するという。
 てなわけで、本年もよろしくお付き合いください。(2016・1・20)
(次回更新は2月3日の予定)
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。