第162回 ネットの文章を読む「忍耐」、国産ワインの商機、テニス仲間の新年会、レンコンの身、民主党のポスター

×月×日 ノンフイクションの書評サイト「HONZ」を主宰する成毛眞氏(元日本マイクロソフト社長)が「週刊新潮」に連載しているコラム「逆張りの思想」(2015年12月24日号)を読んでいたら、面白い指摘があった。「ネットで文章を読むのは、忍耐を必要とする」というのである。なぜか。間違いが多いので、それを許す「寛容」の精神が求められる。
 また、コピーによる「転載」も多い。これも神経に障る。誤字やミスに出会うと、読む気が萎える。それらの抵抗を乗りこえて読み続けるにはエネルギーを必要とする。ご指摘通りで、同感だ。
 誤字の典型で、よく漢字のテストに出る「専門」を「専問」と誤る例は激減した。ネット上では、「絶滅」した、といってもいいだろう。しかし、変換ミスは後を絶たない。「幹部」を「患部」、「登用」を「盗用」、「新雪」を「親切」など、どうして気が付かないのか、と不審に思うことがある。
「追及」と「追求」などの誤りは、明らかに書く人の国語能力の問題もある。「おくび(噯あるいは噫)にも出さない」を「億尾にも出さない」とか、「しわぶき(謦あるいは咳き)ひとつない」を「皺ぶき一つない」などという文章を見ると、本人の日本語能力もさることながら、機械(ソフト)の限界も感じる。
 成毛氏は、「ネットにも校閲者が必要で、校閲済みの文章には、マル校マークを付けたらどうか」と提案している。名案だ。
 新聞記者や文筆家でも、「ネットに書くときは多少の誤字は許される」と考えている人が結構いるのではないか。自戒(まず「次回」と出た)を込めて書くのだが、私の場合は、このネッセイでも、必ず一度はプリントアウトして、間違いがないかチェックしている。「慣れ」の問題もあるが、画面だけでは、どうしてもチェックできない。それでも、「間違い」は生じる。まあ、他のネット文章よりは、少ないはずだけれども。

×月×日 日本に輸入されている外国ワインの輸入量が最も多い国はチリで、ワイン王国のフランスを抜いた。最近の10年で約7倍に増えたというのだから、すさまじい。ボトル価格で1,000円以下の品が多く、味もそんなに見劣りがしないところが、受け入れられたのだろう。かつては贅沢品だったワインが、誰でも日常的に楽しむ酒になったことを示している。
 ところで、2018年からは、国産ブドウを100%原料として使用し、国内で醸造されたものでないと、「日本ワイン」と表示できなくなる。さらに「山梨ワイン」とか、「勝沼ワイン」など県名や地方名を名乗るためには、原料の85%をその地で収穫し、醸造しなくてはいけない。
 2014年の国内市場は輸入ワインが約2,900万ケースなのに対して、国産ワインは約1,300万ケースだから3割にすぎない。そのうち日本ワインと呼べるのは、わずか95万ケースだから、国内市場の2%でしかない。国産ワインといっても、濃縮果汁や外国産ワインをバルク(タンク)で輸入して、日本で生産されているワインが多いことを物語っている。
 山梨県ワイン酒造組合の幹部が、「ワインは食との関わりをたのしむもの。和食との相性は輸入ワインより日本ワインが圧倒的な優位性を持つ」(東京新聞2015年12月21日)と語っているが、そこまで言っていいのかなあ。どこにそんな根拠があるのだろう。
 国産ワインの品質が向上したのは認めるが、日本料理との相性云々を言う前に、価格があまりにも高すぎる。地価、労働賃金などを考えれば、当然なのだけれども。チリ産ワインの輸入量増大がそのあたりの事情を雄弁に物語っているではないか。

×月×日 テニス仲間の新年会が自由が丘の「状元楼」(本店は横浜中華街)で開かれた。15名の内、5人が喜寿。傘寿を過ぎて、まだラケットを握っている人もいる。素晴らしい。「状元」とは、科挙を首席で合格した人を指す。中国通のOさんに教わった。勉強になる。

×月×日 朝日新聞の料理のページで、「焼きレンコンとエビの炊きこみご飯」の作り方を読んでいたら、「みっちりと身がつまった冬のレンコン」なる文章が目についた。
 レンコンは、「身がつまる」ものなのか。一瞬レンコンの穴に何か詰まっているのかと、思った。

×月×日 参院選向けに作られた民主党の自虐的ポスターが話題になっている。
 まず横組みで、「民主党は嫌いだけど、」とあって、それよりは、やや大きな字で、「民主主義は守りたい。」とある。注目されるかもしれないが、「政権奪取」という覇気がない、というのが一般的な反応だろう。
 なんといっても、「民主党は嫌い」などと、マイナスイメージを前面に出すのは、良くない。なぜ、嫌われているのか、分析、反省、改善するのが先決ではあるまいか。
 少し前まで、朝日新聞に「ニュースがわからん」というコラムが有った。やさしいニュース解説のつもりだろうが、自分で「わからん」というより前に、分かりやすい記事を書くことが重要だ。確か毎日新聞は、同じような内容を 「なるほどドリ」というタイトルで掲載していたと思う。
 広告代理店のコピーライターも、新聞社の部長(だろう)も、ちょっとひねったつもりで、得意げになっている顔が浮かぶ。小手先の「サル知恵」に過ぎない。 

×月×日 有楽町の「よみうりホール」で落語会。「よってたかって新春らくご 16/21世紀スペシャル寄席 ONEDAY」例によって、長いタイトルだ。何を「売り」にしたいのか、意味不明だ。というより、言葉の意味が相殺されて、何も訴えていない。民主党のポスター並みの幼稚さで、コピーライター(居たとしたら)として失格だ。
 三遊亭兼好の「紙入れ」、柳家三三の「二十四孝」、桃月庵白酒の「四段目」、柳亭市馬の「淀五郎」。落語ファンはすぐお分かりのように、「四段目」と「淀五郎」はいずれも、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」がテーマ。分かりやすいといえば分かりやすいが、どう考えても「ダブリ感」、「カブリ感」がある。
 意図したものか、偶然の一致なのかは謎だ。そういえば、「二十四孝」も歌舞伎の演目だ。(16・2・3)
◇次回は2月17日更新の予定です。
重金敦之(しげかね・あつゆき)

1939年東京生まれ。元朝日新聞社編集委員。「週刊朝日」編集部在籍時に池波正太郎、松本清張、結城昌治、渡辺淳一など多くの作家を担当した。大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。食の分野にも造詣が深く、料理に携わる人たちからの信頼も厚い。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、食生活ジャーナリストの会、各会員。『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)のほか、『作家の食と酒と』『編集者の食と酒と』『愚者の説法 賢者のぼやき』(いずれも左右社)。最新刊に『食彩の文学事典』(講談社)、『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)。