【第5回】自著を語る 木村三郎

放送大学叢書通信005号(2012年6月発行)より、美術史学がご専門の木村三郎先生のインタビューをご紹介します。

インタビュー 木村三郎先生

◉先生は西洋美術史がご専門ですが、最初はフランス文学科だったとうかがいました。
―—ぼくは、もともと父が洋画家の山口薫、弟子である坂本画伯と親しくしていたり、演劇を志す人間が近くにいたりという環境で育ちました。身のまわりにある書物、たとえば小林秀雄の近代絵画論や三島由紀夫の美術批評などを読んできました。そうして東大の駒場で学んでいた時に、高階秀爾先生の『名画を見る眼』(岩波新書)に出会った。
 これは明晰な分析が展開されている本で、影響を受けました。さっそく高階先生が駒場で開講した美術史論を受講し、その後美術史学を専門にすることにしたのです。

◉ご専門はプッサンです。
―—日本に大きな影響を与え、いまでもたいへん人気のあるのはセザンヌですが、彼の構成感覚のルーツは十七世紀の画家プッサンにあります。彼にはギリシア以来の濃密な古典主義がある。綺麗な色彩ではないので、感覚的にはなじみにくいのですが、本書のテーマ、西洋近代絵画の中心をなす画家です。
 十七世紀の美術史家フェリビアンはプッサンのもっとも正確な批評を残していますが、彼の方法は、まず綿密に作品を記述してゆくことから始まります。この作品記述は美術史研究のいちばんの基礎となります。

◉作品記述の重要性は本書の冒頭でも紹介されます。
―—ぼくが本書にも登場するチュイリエ教授から学んできた、フランスのもっとも保守的で伝統的な美術史研究の方法論は、ドキュメンタリスト養成が目的だとでもいうべきもの。たとえば、その画家や作品を調べ読解するために、どの文献を参照すべきか、どのようにリストアップしてゆくかというものでした。
 一方で、実証性を重視し、美術史にアプローチするとき、その作品が何をどのように描いているかを記述することはすべての基礎をなす作業です。
 作品を前にして、手を動かして書くということは、見ることや聞くこととは本質的に異なる行為です。作品を美術史的に「見る・学ぶ」ことの第一歩は、自分で手を動かすことから始まります。

◉本書の文献案内はHPでも公開しています。
―—本書で紹介しきれなかった文献は、ぼくのHPに公開しています。冊子体の書物に変わって、デジタルの世界はまだ試行錯誤ですが、どんどん充実してきています。ぼくはこれまでデジタルアーカイブの仕事にも力を入れてきました。本と違って、最新の研究成果を文献リストに加えてゆくことができる自由自在な良さがあります。西洋美術館をはじめ充実したHPも増えてきました。

◉どんな方を読者として念頭においていますか。
―—美術の見方は自由です。さまざまな感じ方があっていい。でも作品の鑑賞から一歩進んで、美術史をとらえようと思うならば、そこにはアトリビュートの分析や図像学、あるいは来歴を調べるといったさまざまな方法論があります。それを知って作品を見ると、見方がずっと豊かになるでしょう。
 日本でも実にたくさん美術展が開かれています。西洋絵画に関心を持つ方であれば、どなたでもより深い楽しみを知っていただけるでしょう。
 ぼくは美術の制作を志す学生にながく教えていますが、本書に紹介した内容は彼らにも好評です。古典的な作品の見方がわかることが、自分の表現を豊かにすることに役立っているのです。(元放送大学客員教授)
木村三郎先生の『西洋近代絵画の見方・学び方』はこちらから。